うまずたゆまず

コツコツと

夏の土用

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「立秋」前の夏の終わりの約18日間は「夏の土用」に当たります。
今年、令和4(2022)年の「夏土用」は、7月20日から8月6日になります。
夏の土用の丑の日には鰻を食べる習慣があり、
またこの期間は「暑中」と呼ばれ、「暑中見舞い」を出す時期でもあります。
 
 

「土用」とは

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「土用」とは、各季節の変わり目に当たり、
「立春・立夏・立秋・立冬」の直前18日間のことで、
それぞれ「春土用」「夏土用」「秋土用」「冬土用」と言います。
 
季節が変わり目は、
自律神経が乱れやすく大病を招きかねないことから、
昔から、土用の期間中はいつも以上に注意し、
体調管理に気をつけて過ごすことがススメられてきました。
そして4つの「土用」の中でも、
厳しい暑さへの注意が必要な「夏土用」が最も重要視されたため、
一般的に「土用」と言えば、「夏土用」を指すようになったのです。
 
 

令和4(2022)年の土用期間

  • 冬土用: 1月17日[月]~ 2月3日[木]
  • 春土用: 4月17日[日]~ 5月4日[水]
  • 夏土用: 7月20日[水]~ 8月6日[土]
  • 秋土用:10月20日[木]~11月6日[月]
 
 

土用にしないほうがいいこと

土いじり

 
陰陽道における土を司る神様を
「土公神」(どくうじん・どくじん)と言います。
この土の神様「土公神」さんは、春夏秋冬の四季の中で、
春は「竈」、夏は「門」、秋は「井戸」、冬は「庭」にいらっしゃると
言われています。
 
そして「土用」の期間に
土の神様「土公神」さんがいらっしゃる場所の土を動かすと
嫌がって怒ったり祟りを起こすため、
「土用」に土いじりをしてはならないとされています。
 
「土いじり」とは具体的に言うと、
その場所を改修したり、工事を行ったり、
土を動かしてはいけないと言われております。  
具体的には、土いじり、草むしり、柱立て、基礎工事、壁塗り、
井戸掘りなどを含む穴掘り、増改築などです。
 

 
 

間日(まび)

土用の期間は約18日間あります。
この期間ずっと「土いじり」が出来ないというのでは、
仕事や生活に支障が出てしまいます。
 
そこで「土用」には「間日」があって、
「土公神」さんは土の中から出て天上界へ行っているので、
「土いじり」などをしても大丈夫だと考えられています。
 
今年、令和4年の「夏の土用」の「間日」は、
7月25日、7月26日、7月30日、8月6日。
この日でしたら新しい作業をするにも心配はいりません。
 

  

 
因みに、土用期間中に工事を行わざるを得ない場合は
神事を行なって、土中に「鎮め物」(しずめもの)を埋めて
工事の安全を祈願します。
「土公神」さんは土地の神様ですので、
神事を行ない丁寧に工事の奉告をすればご守護下さる神様なのです。
 
 

新しいこと

他にも、
入籍や、転職、新規契約、引っ越しや新しいことを始めること、
新しい場所への旅行も控えた方が良いと言われています。
 
「土用」は季節の変わり目なので
体調を崩しやすかったり、
精神的に不安定になったりしやすい時期なので、
新しいことを始めようとせず、普段以上に注意して
静かに過ごすようになったのではないかと考えられています。
 
 

土用殺(どようさつ)

 
「土用」の期間中は、吉凶関係なく
どの方角も良くないと言われているのですが、
「土用殺」の方角は、特に注意したほうが良いと言われています。
4つの土用それぞれについて決まっていて、毎年同じ方位となります。
  • 冬土用:北東
  • 春土用:南東
  • 夏土用:南西
  • 秋土用:北西
 
 

土用の食い養生

 
「土用」の期間は、季節の変わり目の18日間です。
中でも「夏の土用」は、一年で最も暑さが厳しいとされる時期であり、
梅雨明けも重なります。
そんな体に一番負担の掛かるこの時期だからこそ、
滋養のあるものを食べる「食い養生」の風習が生まれました。
「土用の食い養生」の知恵は、
時代が変わっても私達の生活に役立てるものです。
 
「夏の土用」は、「丑」に因んで、
「う」のつく食べ物や「黒い」食べ物の他、
「土用蜆」や「土用餅」が良いと言われています。
 

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土用の丑の日の「うなぎ」

 
「土用の丑の日」とは、
「土用」の期間中にやってくる「丑」の日のことで、
二回やってくることもあり、その場合、
1回目を「一の丑」、2回目を「二の丑」と言います。
令和4(2022)年の夏土用の「丑」の日は、
一の丑は7月23日(土)、二の丑は8月4日(木)になります。
 

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今のように「土用」に鰻を食べる習慣についての由来には諸説あります。
最もよく知られているもは、
江戸時代中頃の本草学者の平賀源内が発案したという説です。
夏場に鰻が売れないので何とかしたいと近所の鰻屋に相談されて、
「本日、土用丑の日」と書いた張り紙を張り出したところ、
大繁盛したというものです。
 
ただ、『万葉集』にも詠まれているように
奈良時代には既に日本では
「暑い時期を乗り切るために、
 栄養価の高いウナギを食べる」という習慣があったようです。

 
他にも、
● 土用に大量の蒲焼の注文を受けた鰻屋の春木屋善兵衛が、
 子の日、丑の日、寅の日の3日間で作って
 土甕に入れて保存しておいたところ、
 丑の日に作った物だけが悪くなっていなかったからという説。
 
● 鰻屋に相談をされた、蜀山人こと大田南畝が、
 『丑の日に鰻を食べると薬になる』という内容の狂歌を
 キャッチコピーとして考え出したという説。 
 
● 平仮名で墨汁を使って毛筆で書いた「うし」と言う文字が、
 まるで2匹の鰻のように見えたからと言う説。
 
などがあります。
 

 
ところで、近年高騰が続いてる鰻。 
1970年代頃から鰻の漁獲量は減少していて、
個体数も同様に減少し続け、
市場でのウナギの取引量はここ15年で半分以下に減少。
取引価格は3倍以上値上がりしています。
 
 
そのため平成25(2013)年には、
環境省が「ニホンウナギ」を絶滅危惧種に指定。
更にその翌年には、国際自然保護連合(IUCN)も
「ニホンウナギ」と「アメリカウナギ」を絶滅危惧種に指定。
「絶滅危惧種IB類」と言われる
「近い将来における野生の絶滅の危険性が高い種」に選定されています。
 
 
令和2(2020)、3(2021)年と値下がりしていた鰻ですが、
今年は流通停滞により、値上がりしているようですね。
 

news.yahoo.co.jp

 

土用卵(どようたまご)

 
「土用卵」とは、
夏の土用の時期に鶏が産み落とす卵のことを言います。
夏は暑さで疲労が溜まり、体調不良になりやすいため、
夏の土用になると、
精を付けるため「土用卵」を食べるという風習が、
江戸時代からあったようです。
 
そもそも、卵は完全栄養食品と言われ、
豊富なビタミン類、良質なたんぱく質、8種類の必須アミノ酸、
ミネラル類など、まさに滋養たっぷりの「スーパーフード」。
中でも夏の土用の時期に産み落とされた卵は
特に栄養が高いと言われているそうです。

 
 

土用蜆(どようしじみ)

 
「土用の丑の日」に鰻を食べるのが流行したのは江戸時代ですが、
この「土用蜆」(どようしじみ)はもっと古くから伝わる食習慣です。
 
「蜆」(しじみ)の旬は「冬」と「夏」の年に2回あります。
越冬のために栄養を蓄え身が締まった「寒蜆」(かんしじみ)と、
夏の産卵のために身が肥えた「土用蜆」(どようしじみ)です。
特に「土用蜆」は、「腹薬」や「生きた肝臓薬」とも呼ばれ、
胃腸を整え、夏バテ防止に役立つと言われてきました。
 
実際、しじみはアミノ酸が豊富で、
特に「オルニチン」は肝臓によいとされます。
更に、カルシウム、鉄分などのミネラルやビタミンB群も
多く含んでいます。
 

 
 

土用餅(どようもち)

 
お菓子の中にも「土用餅」(どようもち)という
土用を乗り切るための食べ物があります。
 
その昔、宮中では、
「土用の入り」の日あるいは「土用」の期間中に、
暑気あたりをしないようにと、
ガガイモの葉を煮出した汁で餅米の粉を練り、
丸めた餅を味噌汁に入れたものを土食べるという風習がありました。
 
それが江戸時代になると庶民にも広く広まり、
餅を小豆餡で包んだ「あんころ餅」が食べられるようになりました。
 
現在でも、主に京都、滋賀、福井などでは、
「土用の入り」の日に小豆餅を食べる習慣が続いています。
力がつくと言われる「餅」と、
邪気を祓う赤色の「小豆」には悪病・災難を退けるとされ、
暑さの厳しいこの時期に小豆を使った餅を食べることで、
無病息災が叶うと言われています。
 
 

「う」の付く食べ物

「う」のつく食べ物と言えば、「鰻」だけではありません。
精がつくものと言えば、「牛肉」や「馬肉」など。
胃に優しいものと言えば、「うどん」や「瓜」、「梅干し」でしょうか。
 
うどん

 
うどんは喉越しが良く、
暑さで食欲がない時でも食べやすいので、
夏バテを防ぐことが出来ます。
消化吸収も優れているため、
病後や胃腸が弱っている時などのエネルギー源として
最適な食べ物です。
 
うどんは、様々な具材を合わせやすいというので、
甘辛く味付けしたお肉と野菜をトッピングした、
冷やしうどんはいかがですか。
 
 
梅干し
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「う」のつくものと言えば、「梅干し」。
「番茶梅干し医者いらず」とか、
「梅はその日の難逃れ」という言葉があるほど、
「梅干し」は昔から体に良いとされてきた食べ物です。
また、クエン酸がたくさん含まれていますので、
疲労回復にも効果的とされています。
 

 
因みに、「うなぎと梅干しは食べ合わせが悪い」と言われてきましたが、
実は、医学的根拠は全くありません。
むしろ近年では、栄養面でとても優れた組み合わせと言われています。
 
まず、梅干しの酸味が胃酸の分泌を促し、
うなぎの脂分の消化をサポートしてくれるため、
食後の胃もたれを防止する効果があります。
 
また梅干しのクエン酸は、
うなぎに含まれるビタミンB群と一緒に摂ることで、
エネルギーの代謝効率を上げてくれるという相乗効果もあるそうです。
 
冷やしうどんとの相性も最高です。
 
 
クールベジ・瓜(うり)

 
ウリ科の食べ物も最適な食べ物とされています。
瓜と言えば、夏が旬を迎える
胡瓜(きゅうり)、苦瓜(にがうり・ゴーヤ)、西瓜(すいか)
西瓜(かぼちゃ)、冬瓜(とうがん)、ズッキーニなど、
多種多様にあります。
 

 
そしてこれらウリ科の野菜には、
利尿作用がある「カリウム」を多く含まれていることから、
今、「クールベジ」として注目を集めています。
 

 
「クールベジ」とは、
「カリウム」と水分を含む夏野菜のことです。
「カリウム」には、
水分とともに夏の暑さで体にこもった熱を体外に放出し、
体をクールダウンさせる効果があることから、
熱中症予防や夏バテ予防に良いとされているのです。
 

 
また「カリウム」はナトリウムを排出する働きがあるので、
体内の水分や塩分のバランスが整えられ、利尿作用が働きます。
この利尿作用のおかげで、むくみや高血圧防止にも役立ちます。
 

 
スタミナ食品だけでなく、
夏を乗り切るためには夏野菜が大切だということを、
昔の人はよく知っていたのでしょうね。
 
 

夏の土用のその他の習慣

土用干し(どようぼし)

 
夏の土用には、土用干し(または虫干し)と言って、
書物や衣服などを取り出し、風を通します。
梅雨の間の湿気によってカビや虫がつくのを防ぐための習慣です。
平安時代、正倉院の所蔵品も「土用干し」をしていたそうです。
 
田の土用干し

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またこの時期、
一週間程、田の水を抜いて、稲がしっかり根を張るようにする
「田の土用干し」もあります。
 
梅の土用干し
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梅雨が明け、6月頃に収穫した梅の実を塩漬けにして
3日ほど日干しにしますが、これが「土用干し」と呼ばれています。
「土用干し」したものを本漬けしたものが「梅干し」となります。
 
雪駄の土用干し

雪駄を干すと反ってしまうことから、
「反っくり返って、威張った態度で歩く人」のことをいう言葉です。
夏の土用とは関連はないようですね。
 
 

土用三郎

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夏の土用入りの日を「土用太郎」、
二日目を「土用次郎」、三日目は「土用三郎」 と呼びます。
この「土用三郎」の日の天気で、秋の収穫を占う慣習があります。
晴れたら豊作と言われます。
 
 

丑湯

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「土用の丑の日」には、夏バテ防止や疲労回復のために、
薬草を入れた「丑湯」に入る風習があります。
様々な薬草が用いられましたが、
江戸時代からは桃の葉を入れた「桃湯」を「丑湯」としていたようです。
 

丑の日の丑の刻に温泉に浸かると、
一年間無病息災でいられると昔から信じられ、
日本各地の温泉地の中には、
「丑湯祭り」を行っているところもあります。
 

kuroishi.or.jp

 
丑湯には、元々、禊(みそぎ)の意味があたようです。
土用の丑の湯にゆったり風呂に浸かると病気をしないと言います。
夏真っ盛りでも、
冷房の効いた室内で過ごすと、身体は芯から冷えてしまいます。
クーラーで冷えた体を温めましょう。
 
 

土用灸(どようきゅう)

夏の土用にお灸をすえると、特に効果があると言われています。
ちょうど夏の疲れが出てくる時で、体を労わる頃合いです。
 
 

「暑中見舞い」と「残暑見舞い」

 
「暑中」と言うのは、
夏の暑い時期のこと、あるいは夏の土用期間を言います。
以前は、暑中お見舞いと言えば、
直接挨拶に伺えない遠方の人に送る夏の便りでした。
それが、お世話になっている人や親しい友人知人に送る
暑さを労う挨拶状として広まったのは大正の頃です。
昔は夏の土用に送っていたので、「土用見舞い」とも言われました。
 
今では
「小暑」より以前は「梅雨見舞い」、
「小暑」から「立秋」前日までに出すのが「暑中見舞い」、
「立秋」以降は「残暑見舞い」とされています。
 
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