うだるような夏の暑さ。
夏の暑い時期を元気に乗り切るため、
日本には、暑さを体から打ち払う「暑気払い」という
古くからの伝わる風習があります。
「暑気払い」とは
「暑気払い」とは、漢字が示す通り、暑気を払うことを意味します。
「暑気」という言葉には、
「夏の暑さ」と「暑さから来る病気」という2つの意味があります。
「払い」には、
「不要なものを取り除く」とか「脇に退ける」という
ニュアンスの意味があります。
つまり、「暑気払い」は体に溜まった熱を取り除いて、
弱った「気(エネルギー)」を元に戻して
「元気」になろうというとすることです。
漢方では、気候の変化が原因で病気になる場合、
その原因となる「病邪(病の邪気)」は6つあると考えられています。
その6つとは、
「風邪 」「暑邪 」「寒邪 」「燥邪 」「湿邪 」「火邪 」です。
夏に特に気をつけたい邪気は、「暑邪 」と「湿邪 」の2つ。
「暑邪 」によって体に熱がこもると、
高熱、顔面紅潮、大量発汗、口渇(喉の乾き)をもたらし、
体力が消耗することで気力も減退します。
一方「湿邪 」は、湿気が体の内にこもることで、
だるさや食欲不振、冷えや胃腸虚弱に繋がる邪気です。
こうした不調は特に梅雨に感じる方が多いでしょう。
「暑気」とは、漢方では「暑邪」と言います。
夏にはこうした体の不調が起こるので、
「体内に溜まった熱を冷まして」(暑気を払って)、
「気力・体力を取り戻す」ために、
「暑気払い」が行われるのです。
「暑気払い」の時期は
特に決まっている訳ではありません。
暑さを打ち払う訳ですから、
夏の暑い時期ならいつでも構わないでしょう。
江戸時代から伝わる智慧「暑気払い」
「暑気払い」の歴史は古く、
かつて日本の宮中では、氷を食べたり、甘酒を飲んだりして
暑さをしのぐ風習がありました。
更に江戸時代に入ると、
庶民の間にも暑い夏を乗り切るために、
様々な「暑気払い」が行われました。
「薬湯」に入ったり、行水や川遊びなど、
外から身体を冷やして「暑気払い」をしました。
また「酒」や「薬湯」を飲んだり、などを食べて、
身体に溜まった熱気を取り除くことで、
江戸時代には「枇杷の葉」 や「桃の葉」を煎じた「薬湯」を飲んだり、
冷たい食べ物や身体を冷やす効果のある「夏野菜」を食べて
暑さを払っていました。
「暑気払い」に効く食べ物
氷(かき氷、氷菓子、氷料理)
冷たいものと言えば「かき氷」ですね。
清少納言の『枕草子』に出てくるほど歴史は古く、
平安貴族が「暑気払い」に食べていたことが分かります。
冷蔵庫のなかった時代、夏に氷を口にするには、
冬に氷を切り出して「氷室 」に蓄えておかないといけません。
江戸時代には、6月1日の「氷室の節句(氷の節句)」に
加賀藩から江戸城に氷を献上していたほど、氷は貴重なものでした。
麦(そうめん、冷麦、ビール)
日本では、旬の食材が体調を整える効果に着目してきました。
6~7月に収穫される「麦」は、
夏バテを防ぐ上で効果的と言われています。
そうめん
夏の涼しげな食べ物の代表格と言えば、「そうめん」。
お中元、お盆の供物に「そうめん」を用いる理由のひとつは、
「暑気払い」にも通じるからだそうです。
「七夕」は「麦の収穫祝い」も兼ねていて、
そのルーツは奈良時代にまで遡ることが出来ます。
最初は「索餅」(さくべい)という小麦のお菓子で、
それがだんだんと麺料理に変化していったようです。
旧暦の「七夕」はまさに夏の盛りの8月上旬~下旬に当たります。
茹でて冷水でキュッと締めたら、
その後は氷水に浸けないのが麺の風味を保つポイントです。
冷や麦
「冷や麦」の起源は、
室町時代に登場したうどんを細く切った「切麦」(きりむぎ)です。
この切麦を冷やして食べるのを「冷麦 」、
ゆでて熱いうちに食べるのを「熱麦 」と呼び、
これが今の「冷麦 」に繋がっていきました。
「そうめん」と「冷や麦」の違いは「太さ」です。
消費者庁の「食品表示基準」には、
乾麺の分類分け(機械製麺)を次のようにしています。
- そうめん:直径1.3mm未満
- ひやむぎ:直径1.3mm以上、1.7mm未満
但し、手延べの場合は、1.7mm未満であれば、
「そうめん」「ひやむぎ」どちらでも名乗ってよいそうです。
ビール
現代の「暑気払い」に欠かせないビールの原料は、
まさに麦(大麦)。
体を冷やし、利尿作用で不要なものを体から出してくれる
優れものです。
ですが、飲み過ぎには注意!
甘酒
お正月に神社で振る舞われるところから、
冬のイメージがある甘酒ですが。
俳句で甘酒は「夏の季語」です。
ビタミンB1、B2、B6、葉酸、
アミノ酸、ブドウ糖などが含まれていることから、
「飲む点滴」と言われ、疲労回復や免疫力アップなど、
美容や健康への様々な効果・効能が知られていますが、
夏バテ予防にもピッタリの飲み物です。
江戸時代には
行商人が「あま~いあまざけ~」と売り歩くのが風物詩の
貴重な「夏の栄養ドリンク」でした。
キリッと冷やすと、お米の糖分だけの自然な甘さが美味。
また、甘酒にヨーグルト・フルーツ・シリアルなどを足せば、
夏の朝にサッと食べられるヘルシーな朝食にもなります。
梅ジュース
梅の収穫期は6月頃です。
その頃から「梅酒」を漬け始める方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「梅酒」が飲めるようになるまでは2~3カ月かかるため、
飲み頃は秋口以降になります。
ですが、同時に「梅シロップ」も漬けておけば、
こちらは2週間程で飲めるようになります。
「梅シロップ」は、梅酒を作る時のレシピから
「ホワイトリカー」を除いた、
同量の梅と氷砂糖だけで作ることが出来ます。
酢を少し入れてもOKです。
クエン酸が豊富で疲れを吹き飛ばして切れます。
冷たい炭酸水や水で割れば、爽やかな酸味を楽しむことが出来ます。
冷やし飴
関西・四国エリアではお馴染みの
麦芽由来の自然で優しい甘みの「冷やし飴」。
麦芽の水飴と生姜の絞り汁だけで作られた
「日本版ジンジャーエール」です。
江戸時代の大阪には「あめゆ屋台」があり、
暑気払いの滋養飲料として、温かい状態で提供されていました。
明治以降になり製氷技術が発達し「冷やし飴」となり、
気軽な清涼飲料として親しまれるようになりました。
枇杷葉茶
「枇杷」(びわ)は、梅雨の時に
オレンジ色の瑞々しい果実を実らせます。
その葉っぱを煎じたお茶は、
「暑気払い」の飲み物として古くから知られています。
漢方では「枇杷葉」(びわよう)と呼ばれ、生薬として使われています。
煎じると清々しい香りがあり、ノンカフェインの爽やかなお茶になります。
江戸時代の行商人を描いた曲亭馬琴の
『近世流行商人狂哥絵図』には、
「びわようとう~(枇杷葉湯)、第一暑気払い…」と言いながら
びわ茶を売り歩く姿が描かれています。
土用の丑の日「鰻」(うなぎ)
夏バテ防止の食べ物と言えば「鰻」(うなぎ)!
令和4年の「土用の丑の日」は7月23日です。
江戸中期、平賀源内が「本日土用の丑の日」と張り紙をしたことから、
人気になったという説がよく知られていますが、
1200年前の『万葉集』に既に登場しているばかりでなく、
縄文時代の遺跡「浦尻貝塚」からも
魚の骨や貝殻などと一緒に鰻の骨も見つかっているということなので、
実際はもっと古くから身近な食べものだったようです。
「鰻」(うなぎ)には、ビタミンA、B群、E、Dなどが豊富で、
特にビタミンAは、
100g食べれば成人の一日に必要な摂取量に達する量です。
夏野菜
スイカ・ナス・トマト・キュウリ・ゴーヤなどの「夏野菜」には、
体の中の熱を取る作用があると言われています。
「カリウム」などの人体に必要なミネラルを含んでいるからです。
「カリウム」は、ナトリウムの排出を促す成分で、
また、細胞の浸透圧を調節して、
体液のpHバランスを一定に保つ働きもあります。
そんな夏野菜をモリモリ食べられるのが、
山形県のご当地グルメ「だし」です。
夏野菜を細かく刻み、
醤油やめんつゆをかけるだけのシンプルなメニューです。
暑い日でも不思議なほどご飯が進みます。
香味野菜のミョウガやシソ、粘りのある昆布やオクラ、
鰹節などを足すと更に美味しくなりますよ。
ウリ(西瓜すいか、胡瓜きゅうり、冬瓜とうがん、苦瓜にがうり、南瓜かぼちゃ)
「ウリ」は、総じて栄養価が高く、体力が衰える夏場に効果的な上、
冬まで保存し健康維持に役立てることが出来ます。
古くから暑気払いに効く食べ物として重宝がられていました。
冬至に食べる風習も生まれました。
体のバランスを取るには、
冷やすだけではなく、温めることも大事だとされているので、
冷たいものばかりでなく、温かい料理もいただくのがポイントです。
西瓜(すいか)
スイカは90%が水分で、一切れで30~40kcal程度と低カロリーですが、
実は素晴らしい栄養を持っています。
まず、カリウムが豊富。
更に、免疫反応の活性化、細胞増殖を促進する作用がある
「L-シトルリン」というアミノ酸が豊富です。
胡瓜(きゅうり)
「キュウリ」のほとんどは水分で、
カリウムを多く含んでいることから、
夏バテ予防に最適な食材といっても過言ではありません。
カリウムは体内の余分なナトリウムの排泄を促すため、
血圧を下げる作用の他、血液をアルカリ性にする働きもあります。
「夏バテ」というのは、
実はこのカリウムが汗とともに失われて起こる
「低カリウム血症」が原因なことが多いとも言われています。
冷や汁
夏のご当地メニュー「冷や汁」は、
ダシや味噌で味付けをした汁物料理で、
暑い夏でも食が進む一品です。
「冷や汁」は、山形県、新潟県、埼玉県、静岡県、宮崎県など、
全国各地にがあり、それぞれレシピも個性豊かです。
宮崎県の「冷や汁」は、焼きほぐしたアジに、
キュウリ、ミョウガ、豆腐などを入れ、
麦味噌をペーストにして軽く焼いてダシ汁で溶いたものをかけ、
すりゴマを振れば完成です。
冷やしておくと美味しさ倍増。
香ばしい香りが食欲を掻き立ててくれます。
