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七十二候「鴻雁北」

「こうがんかえる」と読みます。
 

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冬になる前に北方から渡ってきて、
冬の間を日本で過ごしていた雁(がん)
北国へ去っていく頃です。
春に飛来する玄鳥(つばめ)と入れ替わるようにして、
日本を離れていきます。
 
 

 
「鴻雁」(こうがん)とは、
渡り鳥の「雁」(がん)のことです。
  • 「鴻」:「ひしくい」という大型の雁
  • 「雁」:それ以外の小型の雁
 
「雁」(がん)というのは、
カモ目カモ科ガン亜科の水鳥のうち、
(かも)より大きく、
白鳥(はくちょう)より小さい一群の総称で、
特定の鳥を指す名前ではないそうです。
そのうち日本では、
「真雁」(まがん)「四十雀雁」(しじゅうからがん)「菱喰」(ひしくい)など、
9種が確認されており、9割は「真雁(まがん)だそうです。
 

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ところで京都には、
「雁ヶ音」(かりがね)と呼ばれるお茶があるのを
ご存じでしょうか。
地域によっては、
「白折」(しらおれ)とか「棒茶」(ぼうちゃ)とも呼ばれる、
鮮やかな色をした玉露の「茎茶」です。
 

 
「雁ヶ音」(かりがね)は、
玉露や高級な煎茶の仕上げ加工工程で、
「白折」(しらおれ)とも呼ばれる茎の部分を集めた「茎茶」です。
 

 
茎は、甘味のある「テアニン成分」が一番多く含まれている部分です。
そのため、水色(すいしょく)は薄いのですが、
玉露とはまた違った「雁ヶ音」特有の爽やかな香りと
渋みが少なくまろやかでまったりした旨味が好まれています。
高温で淹れても苦味が少ないのが特長です。
わざわざ「雁ヶ音」を好んで飲んでいる人もたくさんいます。
 
「茶柱が立つ」ことから、
縁起が良いとされるお茶として知られています。
 
また、茶葉が茶こしの網目に詰まりやすいのに比べ、
茎を使っている「雁ヶ音」は後片付けが簡単です。

 
この「雁ヶ音」の名前の由来は、
茶葉の茎の部分を、
渡り鳥の「雁」が海上で体を休めるために止まる
小枝に見立てたことに由来すると言われています。
 

 
渡り鳥の「雁」は、遠く海を渡る前に途中、
海上で停まって体を休めるための小枝(葦)を用意し、
これをくわえて渡りの旅に出た・・・という
故事(『淮南子』)があります。
そのことから、用意が良いこと、準備に手抜かりがないことを
「葦を啣む雁」と言います。
 
『淮南子』(えなんじ/わいなんし)
前漢の武帝の頃、
淮南王劉安(紀元前179年 - 紀元前122年)が
学者を集めて編纂させた思想書。
日本にはかなり古い時代から入ったため、
漢音の「わいなんし」ではなく、
呉音で「えなんじ」と読むのが一般的。
 
 
青森県の津軽地方には、「雁風呂」(がんぶろ)の伝説があります。
これは、秋に葦をくわえて
大陸から日本に渡ってきた雁は、
津軽の浜に辿り着くと、
くわえてきた葦や小枝をこの浜に落として、
身軽になって更に南下を続けます。
 
春になり北帰行を始め、再び海を渡る段になると
津軽の浜で秋に落としていった葦や小枝を拾って
飛び立っていくと言われました。
 
そして雁の北帰行が終わる頃、
秋から春の間に命を失って
この浜まで辿り着くことの出来なかった雁の数だけ、
浜には小枝が残されます。
 
近隣の人々はこの小枝を拾って風呂を沸かし、
旅の途中で命を失った雁を供養したと言われ、
この供養の行事が「雁風呂」と呼ばれました。
 

 
大変によく出来た話ではあるのですが、
残念なことですが、
実際に雁が小枝(葦)をくわえて渡ることはないそうです。
「雁風呂」伝説自体、津軽地方には無いそうで、
どうやら都人が
津軽の浜の冬場の漂着物と『淮南子』(えなんじ)の故事を結びつけて
生み出した物語のようです。
 
 
5月に入るとすぐに
雑節の「八十八夜」があります(令和5年は5月2日)。
 今年は「雁ヶ音」でも買い求めようかなあ。
 

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