冬になる前に北方から渡ってきて、
冬の間を日本で過ごしていた雁 (がん/かり) が
北国へ去っていく頃です。
春に飛来する玄鳥(つばめ)と入れ替わるように
日本を離れていきます。
「鴻雁」(こうがん)とは、
渡り鳥の「雁」(がん/かり) のことです。
- 「鴻」:「ひしくい」という大型の雁
- 「雁」:それ以外の小型の雁
「雁」(がん/かり) というのは、
カモ目カモ科ガン亜科の水鳥のうち、
鴨(かも)より大きく、
白鳥(はくちょう)より小さい一群の総称で、
特定の鳥を指す名前ではないそうです。
日本へは、真雁 (まがん) 、菱喰 (ひしくい) 、
酒面雁 (さかつらがん) 、黒雁 (こくがん) など
8種が渡って来ます。
その9割は「真雁」(まがん) だそうです。
ところで京都には、「雁ヶ音」(かりがね) と
呼ばれるお茶があるのをご存じでしょうか。
玉露や高級な煎茶の仕上げ加工工程で、
「白折」(しらおれ)とも呼ばれる
茎の部分を集めた「茎茶」です。
茎は、甘味のある「テアニン成分」が
一番多く含まれている部分です。
そのため、水色(すいしょく)は薄いのですが、
玉露とはまた違った
「雁ヶ音」特有の爽やかな香りと
渋みが少なくまろやかでまったりした旨味が
好まれています。
また、高温で淹れても苦味が少ないのが
特長です。
わざわざ「雁ヶ音」を好んで飲んでいる人も
たくさんいます。
茎茶であることから「茶柱が立ちやすい」ため
縁起が良いとされるお茶としても知られて
います。
茶葉は茶こしの網目に詰まりやすいのですが、
「雁ヶ音」は茎の部分を使っているため、
後片付けが簡単です。
この「雁ヶ音」の名前の由来は、
茶葉の茎の部分を、渡り鳥の「雁」が
海上で体を休めるために止まる小枝に
見立てたことに由来すると言われています。
渡り鳥の「雁」は、遠く海を渡る前に途中、
海上で停まって体を休めるための
小枝(葦)を用意し、
これをくわえて渡りの旅に出た・・・という
故事(『淮南子』)があります。
そのことから、用意が良いこと、
準備に手抜かりがないことを
「葦を啣む雁」と言います。
『淮南子』(えなんじ/わいなんし)
前漢の武帝の頃、
淮南王劉安 (紀元前179年 - 紀元前122年) が
学者を集めて編纂させた思想書。
日本にはかなり古い時代から入ったため、
漢音の「わいなんし」ではなく、
呉音で「えなんじ」と読むのが一般的。
青森県の津軽地方には、
「雁風呂」(がんぶろ)の伝説があります。
これは、秋に葦をくわえて
大陸から日本に渡ってきた雁は、
津軽の浜に辿り着くと、
くわえてきた葦や小枝をこの浜に落として、
身軽になって更に南下を続けます。
そして春になり北帰行を始め、
再び海を渡る段になると
津軽の浜で秋に落としていった
葦や小枝を拾って
飛び立っていくと言われました。
そして雁の北帰行が終わる頃、
秋から春の間に命を失って
この浜まで辿り着くことの出来なかった
雁の数だけ、浜には小枝が残されます。
近隣の人々はこの小枝を拾って風呂を沸かし、
旅の途中で命を失った雁を供養したと言われ、
この供養の行事が「雁風呂」と呼ばれました。
大変によく出来た話ではあるのですが、
残念なことですが、
実際に雁が小枝(葦)をくわえて渡ることは
ないそうです。
「雁風呂」という伝説自体、
津軽地方には無いそうで、
どうやら都人が
津軽の浜の冬場の漂着物と
『淮南子』(えなんじ)の故事を結びつけて
生み出した物語のようです。
5月に入るとすぐに
雑節の「八十八夜」があります。
今年は「雁ヶ音」でも買い求めようかなあ。