「鴻雁来」(こうがんきたる)とは、
暖かい南へと下っていくツバメと入れ違いに、
雁が北から渡ってくる頃という意味です。
「鴻雁」とは、
渡り鳥の「雁」(がん/かり) のことで、
「鴻」は「ひしくい」と読み、
大型の雁のことを言います。
一方「雁」は小型の雁を指しているそうです。
ところで
春を告げる「鶯」(うぐいす) や
夏を知らせる「時鳥」(ほととぎす) と共に
「雁」(がん/かり) は、秋を告げる鳥と
言われてきました。
「雁」(がん/かり) の別名を
「雁が音」(かりがね) とも呼ぶのは、
姿よりも声を愛でてきた証でもあります。
そんな「雁」(がん/かり) の声は、
「ガーン、ガーン」とも
「カリ、カリ」とも聞こえます。
その鳴き声から、
漢字の「雁」の「ガン」という音は前者、
大和言葉の「カリ」は後者を写したものだ
そうです。
毎年秋なって、北から初めて渡って来る
雁を「初雁」(はつかり)と呼びます。
そしてちょうど雁が渡ってくる頃に吹く北風は
「雁渡し」(かりわたし)と呼ばれ、
秋の季語になっています。
この風が吹き出すと、夏も去り、
海も空も青色が冴えてくるので
「青北風」(あおきた) とも呼ばれます。
「青北風」(あおきた) は、
漁や航海をする人達が使ったのに対して、
「雁渡し」(かりわたし) の方は、
雁の飛来を待ち望んでいた人達の思いが
込められています。
そして棹形や鉤形の列を組んで
鳴き交わしながら空を渡ってやって来た
雁の姿に、日本人は秋の深まりとともに
天地の寂寥を感じてきました。
清少納言は『枕草子』の中で、
「秋は夕暮。
夕日のさして山の端いと近うなりたるに、
烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、
二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。
まいて、雁などのつらねたるが、
いと小さく見ゆるは、いとをかし。
日入り果てて、風の音、虫の音など、
はた言ふべきにあらず」
と記しています。
そして来春「清明」の
次候「鴻雁北」(こうがんかえる)の頃には、
玄鳥 (つばめ) の渡来と入れ替わって、
冬を日本で過ごした雁が北のシベリアへと
帰って行きます。