掛軸の裏打や文化財の修復に使用される
特殊で貴重な「でんぷん糊」である
「古糊」(ふるのり)は、
「寒の内(寒中)」に作るため、
「寒糊」(かんのり)とも呼ばれます。
「でんぷん糊」は、穀物や芋類などの
植物から採れるでんぷん質から成っていて、
古くは平安時代より利用されてきました。
「古糊」(ふるのり)は、
小麦粉などから採った「でんぷん」と
「寒中の水」を鍋に入れ火で炊いて作ります。
「寒中の水」は雑菌が少なく、腐りにくく、
カビも生えないためです。
「古糊(寒糊)作り」は、
「寒糊炊き」(かんのりだき)とも呼ばれます。
「古糊」は市販されていないため、
文化財の修復工房や表具店で作る以外、
手に入れる方法は有りません。
博物館や美術館では、「寒糊炊き」の見学や
体験イベントを行っているところもあります。
焦げ付かないように、
1時間ほどかき混ぜながら炊くと、
粘り気のある糊が出来上がります。
こうして出来上がった糊は、
壺に入れて和紙を使って密閉し、更に、
温度・湿度が一定に保たれている地下の貯蔵庫で
10年以上ゆっくりと熟成します。
こうしてようやく適度な粘着力の
「古糊」になるのです。
「古糊」には、接着力・コシが
ほとんどありません。
掛軸や巻子(巻物・巻軸・巻文・軸物)は、
絵画や文字の表された絹や本紙単体ではなく、
本紙の裏に複数枚の和紙(裏打紙)を
何百、何千回と叩いて繊維を解し、
喰い込ませて接着させます。
糊単独の接着力というよりも、
繊維が解れ絡み合う事で付くのです。
和紙を裏から刷毛で打ち込み解すので
「裏打ち」(うらうち)と呼ぶのです。
「古糊」を用いることで、全体的にコシも落ち、柔らかくしなやかな巻き伸ばしが可能となり、
作品に与えるストレスは少なくて済みます。
また、数十年から数百年後に再修理を行う際、古糊で仕立てた作品の裏打ち紙は
スッキリと剥がすことが出来るそうです。