「風祭」(かざまつり)とは
台風や強風などの風害から
田畑の農作物を守るために、
風を鎮める祈りを込めて
「風祭」(かざまつり)が各地で行われます。
かつては、多くの人が農業や漁業など
天候の影響を受けやすい仕事に関わって
いました。
そのため、風害から守ろう
と様々な祈願行事を行っていました。
台風
「台風」とは、
南洋やフィリピン沖で発生北上する
大きな空気の渦巻で、
中心付近の最大風速が毎秒17.2m以上の
熱帯性低気圧のことで、
海難・風水害など甚大な被害を生じさせます。
なお外来語の「タイフーン」が
「台風」と評されたのは明治40年頃のことで、
大正の初め頃に季語となりました。
野分(のわけ)

「野分」(のわき、のわけ)とは、
「二百十日」の頃に吹く風のことで、
台風の古称でもあり、
『源氏物語』第28帖の題名でもあります。

近代の小説では、
夏目漱石の『二百十日』があり、
宮沢賢治の『風の又三郎』では
9月1日に転校してきた謎の少年の
あだ名になっています。

ザワザワと野分めいた風が吹くことを、
「野分だつ」と言い、
強風に吹かれ飛び、野分をもたらす雲立ちを「野分雲」(のわきぐも)、
強風が去って晴れ上がった空を
「野分晴」(のわきばれ)と言います。
農家の三大厄日
暦の上では、荒天に注意する日というのが
いくつかあります。
特に秋の台風シーズンに、
こうした嵐に注意する日が
3日に集中したことから、
「農家の三大厄日」とされました。
台風の予測が出来なかった時代、
人々はこれらの日を恐れて警戒しました。
八朔(はっさく)
「八朔」(はっさく) とは、「八月朔日」の略で、
朔日 (さくじつ) は1日のことですから、
旧暦8月1日のことを指します。
今年、令和7(2025)年は9月22日になります。
旧暦の八月(新暦9月)は、
稲の穂が出て実りを迎える、
収穫目前の一番大事な成熟期です。
そこへ台風が襲来したら、
暴風で稲は根こそぎ倒され、
何か月も丹精込めて育てきた努力が
一晩で水の泡になってしまいます。
そこから八朔を「厄日」として、
風害を免れるよう風を除けたり鎮めたりする
行事や祭りを行うようになりました。
二百十日(にひゃくとおか)
「二百十日」(にひゃくとおか) は、
立春から数えて210日目に当たる日で、
今年、令和7(2025)年は8月31日になります。
「二百十日」は
中稲 (なかて) の開花時期に当たり、
収穫を間近にした大切な頃です。
台風には十分に警戒せよということで、
厄日となったようです。
二百二十日(にひゃくはつか)
「二百二十日」(にひゃくはつか)は、
立春から数えて220日目に当たる日で、
今年、令和7(2025)年は9月10日になります。
「二百二十日」は、
晩稲 (おくて) の開花時期に当たり、
収穫を間近にした大切な頃です。
台風には十分に警戒せよということで、
厄日となったようです。
全国各地で行われている
「風祭」
風の被害を避けるため、
「風祭」(かざまつり) や「風鎮祭」(ふうちんさい)
など『風』という言葉が入ったり、
「八朔祭」という言葉が入った祭が
全国各地で数多く開催されています。
そのうちのいくつかをご紹介します。
但し、風祭りを行う時期は
強風の時期は土地毎に異なるので、
明確に決まっている訳ではありません。
例えば、1月15日の「小正月」、
2月8日と12月8日の「事八日」、
遅霜に注意が必要な「八十八夜」など
地域によって様々です。
ですがお盆から冬にかけてが多いようです。
おわら風の盆
毎年9月1日、
富山市南西部の山あいの町・越中八尾では、
300年余踊り継がれてきた
「越中おわら風の盆」が幕開けを迎えます。
「おわら風の盆」は、風を鎮める豊年祈願と
「盆踊り」が融合して、
娯楽のひとつとして愛しまれてきたお祭りです。
元禄15(1702)年、加賀藩より
町建のお墨付きを得た喜びの祝いとして
3日間、八尾の町衆が歌・舞・音曲を始め、
俗謡・浄瑠璃、その他思い思いの催しをして、
三味線・胡弓・太鼓などの鳴り物に和して
一昼夜町内を練り廻ったのが
この祭りの始まりと言い伝えられています。
その後、祖霊を祀る「盆三日」になり、
やがて「二百十日」の風害がないことを念じる
風除けの風神を祀るようになり、
更に豊作を祈る「風の盆」に習合したと
言われています。

「おわら」とは、江戸時代文化年間頃、
芸達者な人々が七五調の唄を新作し、
唄の中に「おわらひ(大笑い)」という
言葉を差し挟んで
町内を練り廻ったのがいつしか
「おわら」と唄うようになったという説、
豊年万作を祈念した「おおわら(大藁)」説、
小原村の娘が唄い始めたからと言う
「小原村説」などがあります。
格子戸の民家、土蔵など、
昔の面影を残す街並みに
数千のぼんぼりが立ち並ぶ中、
三味線、胡弓のなどの伴奏で哀愁を帯びた
「越中おわら節」に合わせて、
編み笠を被った無言の踊り手達が
「おわら踊り」を披露します。

艶やかで優雅な曲線美の「女踊り」と
男性の凛々しい直線美の「男踊り」に、
「豊年踊り」の3種類あり、町内毎に特色があり
全国から駆けつけた来訪者を魅了します。

マエナヌカ
「二百十日」の前7日間を「前七日」と言って、
特に風害に気を付ける時期とされ、
地域により風水害を避けるための行事が
ありました。
山口では「マエナヌカ」と言って、
この時期に、子供が山の上に上り
火を焚く行事があったそうです。
長野の伊那では、8月20日頃に
害虫を追い払うための行事「虫送り」と同時に
「風送り」の行事も行ったとか。
大きな袋と竿の先につけて、
御神木の先に縛り付けます。
京都・松尾大社の「八朔祭」
例年9月第一日曜日に京都・松尾大社では
「八朔祭」が行われています。
前日には、京都の夏の最後の盆踊り大会が
開かれます。
当日は赤ちゃんの土俵入り「八朔相撲」や、
子供神輿おねり、女神輿が渡御したり、
ユネスコ無形文化遺産にも登録された
「六斎念仏」の演舞も行われます。
山形県朝日町「大谷風神祭」
「二百十日」の前夜、 山形県朝日町では
天災防止と豊作を祈願する
「大谷風神祭」が行われています。
江戸時代の宝暦6(1755)年頃から行われている
大変歴史の古い村祭りです。
県の無形民俗文化財
「角田流大谷獅子踊」が披露された他、
田楽提灯や屋台行列が夜の地区を練り歩き、
祭りのフィナーレを花火が締めくくります。
菟足神社の風まつり
愛知県豊川市の「菟足神社」(うたりじんじゃ) では
4月に風祭が行われます。
『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』にも
記されているほど歴史ある神事です。
御祭神・菟上足尼命は風の神様ではありませんが
この地に国造として着任する際に
「嵐にもかかわらず無事に船旅を終えて
到着した」ということで
風に霊験があるとされました。
山車 (だし) が街中を練り、煙火が夜空を彩り、
多くの人で賑わう祭礼は、
この地域の春の風物詩になっています。
阿蘇神社の風祭り
「阿蘇神社」では、田植え頃の旧暦4月4日と、
風害が多い旧暦7月4日の2度に渡って
山中にある風穴に、農業にとっての大敵である
悪い風の神を封じ込めるという古式ゆかしい
神事が行われます。
伊勢神宮 風日祈祭(かざひのみさい)
伊勢神宮では、
稲を植え始める旧暦4月(現在は5月14日)と
8月4日の年2回、五穀豊穣と風鎮を祈願します。
内宮別宮の「風日祈宮」(かざひのみのみや) と
外宮の「風宮」(かぜのみや) で、
天候が順調で風雨の災害がなく、
五穀豊穣を祈願する
「風日祈祭」(かざひのみさい) が行われています。
「風日祈宮」「風宮」の祭神は、
伊邪那岐命と伊邪那美命の間に生まれた
神風を起こし日本を救ったとされる風の神様です。
千本ゑんま堂引接寺
「風祭り」
閻魔法王に仕えたと言われる
小野篁 (おののたかむら) が開基した
一般に「千本ゑんま堂」の名で親しまれている
引接寺 (いんじょうじ) では、
小野篁が風となって冥界と行き来したという
伝説に因んで毎年7月に
「風祭り」が実施されています。
境内には風鈴が飾られ、梶の葉に願い事を書く「梶の葉祈願」も行われます。
こちらは風流な風祭ですね。