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コツコツと

鉦叩(かねたたき)

   

 
8月下旬頃に、
秋に鳴く虫の中で一早く鳴き始めて、
秋が来たことを教えてくれる
「鉦叩」 (かねたたき)
バッタ目カネタタキ科に分類されており、
体長は7㎜〜15㎜程の小さな虫で、
「チン、チン・・・」と
仏具の小さな鉦を叩く音のようなので、
「鉦叩」 (かねたたき) という名前がつけられた
そうです。
 
 
「かねたたき」という名前から、
「金運を呼ぶ虫」とも言われています。
「かね」と言っても、
仏具の「鉦(かね)」であって
お金の「かね」ではないのですが・・・。
縁起が良いものだと思っていた方が、
幸せかもしれないですね。
 
音を鳴らす仏具を「梵音具」 (ぼんおんぐ) と呼び
「鉦」や「つり鐘」がこれに当たります。
「鉦」は青銅や真鍮などの金属で作られて
おり、甲高い音が出るのが特徴です。
仏事においては、お経を唱える際に用いられ、
特に複数人でお経を唱える際に調子を整え
やすくなります。
「鉦」 で読経の始まりを告げ、
読経の間に打ち鳴らされることで
故人を偲ぶ場を一層荘厳なものにします。
 
実はこの「鐘叩」(かねたたき)
街中を好んで生活の場としている虫ですが、
秋の派手に歌い騒ぐ虫の多い中で、
耳をすまさなければ聞き取れないような声で、
「チン、チン・・・」と鳴き続けます。
また鳴いているのはオスだけで、
メスは鳴きません。
 
「鐘叩」(かねたたき) は姿が小さく、
樹上性の虫のため地面に降りてくることは
少ないです。
また主に葉の裏などに隠れているため
ほとんど人目につくことはありません。
そのためか、昔の人は
「鉦叩」の「チンチン・・・」という鳴き声を
「蓑虫」(みのむし) の声と勘違いしていたよう
です。
『枕草子』にも、
蓑虫が「はかなげに鳴く、いみじうあはれなり」
と書かれています。
 
更に『枕草子』の一文が由来して、
「蓑虫」は「鬼の子」「鬼の捨て子」で、
父を恋しがって「父よ、父よ (チチヨ、チチヨ) 」
と鳴くのだと思われていたようです。
 
蓑虫、いとあはれなり。
鬼の生みたりければ、
親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、
親のあやしき衣ひき着せて、
「今、秋風吹かむをりぞ、来むとする。
 侍てよ」と言ひ置きて逃げて去にけるも
知らず、風の音を聞き知りて、
八月ばかりになれば、「ちちよ、ちちよ」と、
はかなげに鳴く、いみじうあはれなり。
 
[現代語訳]
 蓑虫は、たいそうしみじみと趣深い。
 蓑虫は鬼が生んだ子で、親鬼は、
 「親に似て、これも恐ろしい心を持っている
   だろう」と畏れ、みすぼらしい衣を着せ、
 「秋風が吹く時分に戻って来ようと思うから
   待っていなさいよ。」と言い残して、
 逃げて行ったのも知らないで、蓑虫は
 ひたすら風の音を聞いて秋だと知ると、
 八月頃に「父よ 父よ」儚い声を挙げて
 鳴くのである。とても可哀そうだ。
 
実際には、「蓑虫」(みのむし) は鳴きません。
 
 
ところで「蓑虫」(みのむし) とは、
ミノガ科に属する蛾の幼虫のことです。
初夏の頃に卵から生まれると、
幼虫達は(親の)蓑の外へと出て行き、
口から糸を吐き出して、
枯れ葉や樹皮の細片をつづり合わせて、
自分の蓑を作ります。
そして秋までに色々な木の葉っぱを食べながら
どんどん大きくなり、
冬は蓑の中で冬眠します。
 
   
 
成虫になると、
オスは蓑から出て飛び回りますが、
メスは蓑の中に留まり、
オスの成虫を呼ぶためのニオイを出します。
そしてニオイに誘われてやってきたオスと
交尾した後は、蓑の中にたくさんの卵を産んで
その一生を終えます。
オスも交尾を終えると栄養を使い果たし、
そのまま力尽きて死んでしまいます。
いみじうあはれなり(とても可哀そうだ)。
 
 
更に、日本最大の蓑虫である「オオミノガ」が
日本に侵入してきた外来種である
「オオミノガヤドリバエ」 という
寄生バエのために、絶滅の危機にあります。
 
 
「オオミノガヤドリバエ」 は、
「オオミノガ」がいる近くの葉っぱに
とても小さな卵を産みます。
その卵を 「オオミノガ」の幼虫が
葉っぱと一緒に食べてしまうことで
「オオミノガ」の幼虫の体内に侵入します。
「オオミノガヤドリバエ」 の卵は、
「オオミノガ」の幼虫の体内で孵化して
幼虫の栄養を奪いながら成長し、
幼虫の体を突き破って出てきて
蓑の中で蛹になり、
成虫になったら蓑から脱出して
また 「オオミノガ」がいる近くの葉っぱに
卵を産み付けるという生態を持った昆虫です。
 

 
「オオミノガ」には、
この恐ろしい外来種の天敵から
身を守る手段をほとんど持っていないため、
一方的に寄生されています。
いみじうあはれなり(とても可哀そうだ)。