九月九日の「重陽の節句」は、
平安貴族の宮中行事であり、
江戸時代には「五節句」に制定されて、
盛大に行われていたようですが、
明治以降は次第に忘れ去られてしまいました。
ただ今でも、地方によっては
「御九日」(おくにち)と呼ばれて、
収穫を感謝する秋祭りが行われています。
語源
「くんち」の多くは、平仮名表記の
「(お)くんち」を正式名称として使っていますが
その語源により
「(御)九日」「(御)供日」「(御)宮日」と
幾つかの漢字表記があり、使い分けがあります。
九日説
平安貴族の宮中行事であった旧暦の9月9日の
「重陽の節句」に行われた祭であることから、「九日(くんち)」という呼び名が定着したと
いう説です。
「長崎くんち」なんかがそうです。
9月9日に、9月19日と9月29日を含めた日程で
「三九日」(さんくにち、みくにち)として
祭礼を行っている地域もあり、これが元とも
言われています。
現在は日程をずらして
休日にお祭りを開催することも多いことから、
誤解を与えないため
「九日」と漢字表記を使わずに、
「くんち」と称しています。
供日説
収穫した作物を神に供える日、
「供日(くにち)」が転じて
「くんち」になったとする説です。
漢字表記がされる場合には、
この表記が使われていることが多いのですが、
後から当て字として考えられたものとも
言われています。
宮日説
お宮に対して祭を行うため、
「宮日(くにち)」が
「くんち」になったという説ですが、
これでは「くんち」が
「秋祭り」に限られることが説明しにくいため、
後から当て字として考えられたものとも
言われています。
各地のくんち
「御九日」(おくにち、おくんち)は、
現在では新暦で行うところも多く、
また必ずしも9月9日に行われるとは限らず、
19日と29日を合わせて行う所や、
11月に行われる所もあります。
お祝いの方法は地方によって異なり、
赤飯や小豆飯を炊いたり、甘酒を飲んだりして刈り上げ祝いをするようです。
また茨城や長野、埼玉などでは、
この日に「茄子」を食べると
病気にならないとする伝承があります。
九州地方では「おくんち」のお祭りが
盛んに行われています。
その祝い方は各地によって様々ですが、
神社から御旅所(おたびしょ)まで神輿による
「御神幸」(ごしんこう)が行われることが
共通しています。
そこに大名行列や稚児行列、山車(曳山・山笠)、
囃子、踊り、獅子舞などが加わりますが、
何が加わるかについては地域により異なり、
同じ「くんち」と一括りに出来ないほど
多彩です。
そして現在は、「御神幸」よりも
むしろそれに加わるものの方が
イベントとしてメインの扱いを受けており、
神事としての意味合いはかなり薄れています。
日本三大くんち
「長崎くんち」 (長崎県長崎市)、
「博多おくんち」(福岡県福岡市博多区)、
「唐津くんち」 (佐賀県唐津市)の3つは、
「日本三大くんち」に数えられています。
長崎くんち(10月7~9日)
例年10月7日~9日の3日間で開催されます。
寛永11(1634)年に、2人の遊女が諏訪神社で
謡曲「小舞」を奉納したことから始まりました。
以降は長崎奉行の援助によって年々盛大になり、
出島に来航したオランダなどの西洋文化や、
清や東南アジアなどの文化の影響を受けた
「奉納踊」と呼ばれる演し物(だしもの)を
祭りに取り入れるようになり、現在の形に
近づきました。
祭りの最大の見所は「奉納踊」です。
神社本社での遷座式(せんざしき)の後、
町内の神輿を奉安(ほうあん)しながら、
代表格の「龍踊り」(じゃおどり)を始め、
「御朱印船」「鯨の潮吹き」といった曳き物や、
屋根に大きな座布団を積み重ねた太鼓台を、
太鼓の打ち手もろとも宙に放り上げる
勇壮な「コッコデショ」、
長崎に漂着した二人のオランダ人を模した
ユニークな「阿蘭陀万歳」(おらんだまんざい)など、
魅力溢れる演し物が満載です。
また、市内中心部の事業者や店先、家の玄関先で
短い踊りやお囃子を演じる「庭先回り」は、
誰でも無料で見ることが出来るそうです。
これらの「奉納踊」は、昭和54(1979)年に
国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
コロナ禍などの影響を受けて、
中止が続いていた「長崎くんち」ですが、
今年、令和5(2023)年、遂に4年振りに復活!
長崎の街にあの興奮と賑わいが返ってきます。
博多おくんち(10月23、24日)
福岡市博多の総鎮守で、
毎年10月23日から24日に
秋季大祭「博多おくんち」が行われます。
祭りの歴史は古く、1200年以上前から
始まったとされています。
毎年11月23日の「新嘗祭」が起源ですが、
昭和28(1953)年からは時期を前倒しにして、
名称も現在の「博多おくんち」に変わりました。
牛に曳かれた神輿を中心とした行列が
約5kmに渡って町を巡行する
「御神幸」が最大の特徴にして見所です。
牛車の後ろには、獅子頭や稚児行列、
ミス福岡が乗ったオープンカー、ブラスバンドと
賑やかな「おくんちパレード」を繰り広げられ、
博多の秋の風物詩となっています。
「おくんちパレード」は、
10月24日(火)の14時に櫛田神社を出発し、
博多の街を巡ります。
唐津くんち(11月2日~4日)
例年11月2日~4日に開催され、
約50万人もの観光客が訪れる「唐津くんち」は、
佐賀県佐賀市にある唐津神社の秋季例大祭です。
「唐津くんち」の曳山行事は、
国の「重要無形民俗文化財」に指定され、
14台の曳山は佐賀県の「重要有形民俗文化財」に指定されています。
また平成28(2016)年12月には、
「ユネスコ無形文化遺産」に登録されています。
最大の見所は、
江戸時代から続くお神輿の渡御と、
お神輿にお供する個性豊かな曳山の数々です。
笛・鐘・太鼓で奏でられる三ッ囃子(みつばやし)や
曳子(ひきこ)の「エンヤ、エンヤ」「ヨイサ、ヨイサ」の掛け声に乗って14台の豪華絢爛な曳山が
勇壮に旧城下町を巡行します。
最古の曳山は、文政2(1819)年に
氏子町の一つである刀町によって奉納された
「赤獅子」と言われています。
それ以後、明治9(1876)年までの57年間に
15台の曳山が製作され、そのうち14台が
150年近く経った今も大切に受け継がれ
現存しています。
曳山はそれぞれ形が異なり、
獅子や兜、亀や鯛など様々な形をしており、
和紙や漆、金箔などで仕上げられた
世界最大級の乾漆造(かんしつづくり)の
美術工芸品となっています。