豆を撒いて鬼やらいをした「節分」の夜、
柊の小枝の先に焼いた鰯の頭を刺した
「柊鰯」(ひいらぎいわし)を家の軒先に挿す風習が
奈良県内を中心とした西日本や
福島県を含む関東地方などに、
現在でも残っています。
日本では昔から、
季節の変わり目である「節分」は、
鬼や魔物といった邪気が生じると
考えられてきました。
そこで鬼の嫌う「柊鰯」を家の入口に飾り、
「邪気の象徴である鬼を寄せ付けない」
「家の中に鬼を入らせない」という
「魔除け」をしたのです。
「節分」に「柊鰯」を飾るという習慣は、
正月の門口に飾った注連縄(しめなわ)に、
「柊の枝」と「なよし(ボラ)の頭」を
刺していたことが、
紀貫之の『土佐日記』から確認出来るように、
平安時代から続いています。
「柊」(ひいらぎ)は、古くから
トゲトゲした葉の形状から
邪気を寄せ付けない縁起の良い植物として、
「鬼門」に植えると良いと言われてきました。
「鬼門」(きもん)とは、北東の方角のことで、
その名の通り「鬼(邪気)の出入りする方角」で、
「鬼門除け」として「柊」を庭木や生垣として植えてきたのです。
『古事記』には、「柊」で造った
邪霊を鎮める儀礼用具
「比比羅木之八尋矛」(ひひらぎのやひろほこ)を
倭建命(やまとたける)が東国平定に向かう前に
父・景行天皇から授けられる話が出てきます。
「比比羅木」(ひひらぎ)という名称がつくのは、
矛の材料に邪気を払う神聖な樹木
「柊」が使用されているためという説、
形状が「柊」の葉に似ているためという説など、
諸説ありますが、儀式の際に使用したのでは
ないかと推測されています。
「鰯」は腐りやすく、焼くことで臭気と煙を
出すことから鬼が近寄らないと言われ、
「魔除け」としていました。
鰯の他にも「大蒜」(にんにく)、「辣韭」(らっきょう)
などニオイの強いものを刺したり、
髪の毛を焼いたりもしました。
西洋でも、悪魔が「ニンニク」を厭うと言われ、
洋の東西を問わず、
魔物は臭いものが苦手なのですね。
なお、焼くことで臭いを出して
魔除けをしていたことから、
西日本では、「焼き嗅がし」が転じて
「やいかがし(焼嗅)」「やっかがし」
「やいくさし」「やきさし」
と呼ばれることもあります。
「柊鰯」は、鰯の頭の部分のみを飾るため、
身の部分を節分の行事食として食べる地域も
多くあります。
特に西日本の一部の地域では
「柊鰯」を飾った後、
その日中に鰯を食べる風習が残っています。
「柊鰯」は「節分」の行事をする日の夜に
飾るのが一般的ですが、
飾るタイミングや時期は特に決まっておらず、
地域によって様々です。
・節分の日のみ
・節分の日から2月いっぱいまで
・小正月(1月15日頃)から節分の日まで
・節分の日から一年間 節分の日だけ