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摘み草

「摘み草」とは、春の初め頃、
春の野に出て雑菜や草花を摘むことです。
 
春の野で草などを摘む「摘み草」は、
古代から春の行事として親しまれてきました。
『万葉集』にも、「摘み草」の様子を詠んだ
歌が収録されています。
 
 
「春日野に 煙立つ見ゆ 娘子(をとめ)らし
 春野のうはぎ 摘みて煮らしも」
春日野に煙が立っている。
乙女達が春のうはぎ(=嫁菜)を摘んで
煮ているのだろう。
 
平安時代の貴族は、
自然を愛でる遊びとして楽しむだけでなく、
野草を体内に取り入れることで
1年の健康を祈願しました。
 

 
江戸時代になると庶民にも広がり、
郊外の野原に日帰りでお弁当を持って出掛け、
摘み草を楽しんだ後は、
お弁当を食べたり、お酒を飲んだりしました。
ただ庶民にとっての「摘み草」は、
風流な遊びというよりも、
食料としての野草を採取する意味も
大きかったとも言われています。
 
 

江戸の摘み草スポット

現在、都市近郊では
野原は見られなくなりましたが、
江戸でも少し足を延ばして郊外に行けば、
野生植物の豊富な自然環境がありました。
 
広尾原(ひろおのはら)
現在の広尾からは想像も出来ませんが、
広尾原は「江戸一番の野原」と言われた場所で、
春は「摘み草」、夏は「蛍狩り」、秋は「虫の声」を
楽しむことが出来ました。
 
熊野十二所権現社くまのじゅうにしょごんげんのやしろ
現在は、西新宿の高層ビル街の中にある
「十二社熊野神社」は、
春は桜、桃、杏、山吹などの花が次々と咲く、
人気の行楽スポットでした。
 

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どんな草を摘んだのか?

 
春の野の「摘み草」では、
(よもぎ)、芹(せり)、土筆(つくし)
野蒜(のびる)、嫁菜などを摘みました。
 
春の野草には、冬の間に体に蓄積した
毒素や老廃物の排出を促進する栄養素が
含まれています。
そのため、春の野草を食べる習慣は、
旬の味を楽しみながらも
体に必要な栄養素を取り入れられる、
体が喜ぶ習慣でもあったのです。
 
寛永20(1643)年に刊行された
『料理物語』第7章の青物(野菜)の部に、
これらの野草のそれぞれに適した料理法が
紹介されていました。
蒲公英(たんぽぽ)
黄色の花の蒲公英(たんぽぽ)は、
日当たりの良い原っぱなどに生えています。
食用として楽しむ場合は、アク抜きをしてから
天ぷらやお浸しにするのがおススメです。
 
嫁菜(よめな)
本州から九州の山野や畔道に自生する
キク科の多年草です。
春の摘み草の代表格であり、摘んだ若菜を茹で、
嫁菜飯やお浸しにして食べると美味しいです。
 
よもぎ
日当たりの良い原っぱや道端に
群生して生えているヨモギは、
高さは10cmくらいまでの柔らかい若芽を
天ぷらやお浸し、炊き込みご飯の他、
餅に練り込んで食べるのがおススメです。
 
野蒜(のびる)
ネギの仲間である野蒜(のびる)は、
日当たりの良い土手や道端に生えています。
ネギのような葉の根元に、直径2cm程
の玉葱のような形をした部分(鱗茎)があり、
ここを食べます。
香りは「ニラ」に似ており、
味は「にんにく」と「らっきょう」の間くらい。
鱗茎や葉をお浸しや酢味噌和え、
味噌汁の具として食べると美味しいです。
 
せり
清流の流れる沢や川辺、田の脇に
群生しています。
三つ葉に似ていますが、セリは5枚葉です。
「春の七草」にも含まれていて、
お浸しや鍋の青味にぴったりです。
 
土筆 (つくし)
土筆(つくし)はスギナの胞子茎で、
日当たりの良い原っぱや、田の脇道などに
生えています。
「ハカマ」と呼ばれる
茶色い葉のついた茎の上に
穂がついているため、
食べる時にはハカマを取り除きます。
アク抜きをして、
お浸しで食べることが多いです。
 
すべりひゆ
日本各地の日当たりの良い、田畑、道端など
至る所に生えています。
若い葉や茎を茹でて水にさらした後、
和えもの、お浸し、汁の実にして食べます。
 
藜(あかざ)
若い芽や出たばかりの葉先を
手で摘み取って採取します。
味はほうれんそうと似ていて、
天ぷら、お浸し、和え物にして食べます。
 
注意
他人の土地に入って、
勝手に採取することは出来ませんので、
田んぼや畑の脇、すぐ横に他人の庭がある
場合などは注意しましょう。
 
野草の中には、食べられる品種と
見間違えやすい、毒性のある草もあります。
また現在は、場所によっては、除草剤などの
農薬が撒かれている可能性がありますので
注意しましょう。