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夜半の秋(よわのあき)

 
「夜半の秋」(よわのあき)とは、
とっぷりと更けた秋の夜のことを言います。
 
 

「夜半」

日本では古くから、
「朝」「昼」「夕」「夜」の
時刻を表現する言葉がたくさんあります。
 
「夜半」とは、
夜がすっかり更けて、人々が寝静まった頃、
夜の12時~2時頃のことを言います。
 

「よわ」?「やはん」?

漢字には「音読み」と「訓読み」の2種類があり、「夜半」も、音読みでは「やはん」、
訓読みで「やわ」と2通りの読み方があります。
それでは「やはん」と「やわ」は、
どのように使い分けられているのでしょうか?
 
気象用語としての「夜半」(やはん)
気象庁では、1日を3時間毎に区分し用語を決め、
その用語を使って天気の解説しています。
 
それによると、次のようになっています。
  • 00時~03時・・・「未明」
  • 03時~06時・・・「明け方」
  • 06時~09時・・・「朝」
  • 09時~12時・・・「昼前」
  • 12時~15時・・・「昼過ぎ」
  • 15時~18時・・・「夕方」
  • 18時~21時・・・「夜の始め頃」
  • 21時~24時・・・「夜遅く」
 
 
気象用語の「夜半」は「やはん」と読みます。
現在は、「夜半」という言葉自体が
日常的にも使用されることが減っているため、
天気予報でも使用を控えているそうですが、
「雨は夜半(やはん)には止むでしょう」とか、
「今日の夜半(やはん)過ぎから雨が降るでしょう」
というように使われてきました。
 
気象用語の「夜半」(やはん)の時間帯は、
次のように細かく決まっていました。
  • 夜半  :23時半 ~ 24時半位
  • 夜半頃 :23時  ~ 25時位
  • 夜半前 :22時  ~ 24時位 
  • 夜半過ぎ:24時  ~ 26時位
 
日本の文学作品の中で使われる「夜半」(よわ)
「夜半」は、小説や俳句などの
文学的な作品にも多く使われてきました。
その場合の「夜半」の読み方は、
「よは(よわ)」です。
 
時間の経過は、
朝(あさ)→昼(ひる)→夕(ゆふ)
といった「昼」を中心とした区分と、
夕べ(ゆふべ)→宵(よひ)→夜半(よは)
暁(あかつき)→曙(あけぼの)→
朝ぼらけ   →朝(あした) の
「夜」を中心とした区分になっていて、
「宵」は「日が暮れてすぐの夜の初め頃」、
「暁」は「夜が明けそうになる頃」を表すため、
その間に位置する「夜半」は
「夜が深まってから明け方の少し前くらい」と比較的長い時間帯を指す言葉として
用いられていたようです。
 

夜半の春・夏・秋・冬

「夜半」は、四季と組み合わせると、
それぞれの季節の季語になります。
どれも直接的な意味は
「その季節の夜遅く」となりますが、
季節によって意味合いが少し異なっています。
 
<夜半の春>
 微かに花の香りが漂い、
 月はぼんやりかすんでいる。
 暖かな空気が満ちるような、
 穏やかでゆったりとした夜のこと。
 
<夜半の夏>
 昼間の暑さが落ち着き、過ごしやすい。
 寝るのが惜しく、ついつい夜更かしをして
 短くなってしまう夜のこと。
 
<夜半の秋>
 空に輝く美しい月、聞こえてくる虫の声など、
 風情のある夜のこと
 
<夜半の冬>
 空気が冷えて澄み渡り、
 星や月が美しい夜ののこと。
 

「夜半」の類語
(夜中/真夜中/深夜/夜更け/未明)

「夜半」のように夜の遅い時間を表す類語に
「真夜中」「夜更け」「深夜」などがあります。
それぞれに時間帯の明確な定義はありません。
具体的な時間帯で使い分けている訳ではなく、
感覚的に使っている人が多いようです。

www.nhk.or.jp

 
夜中
「NHK放送文化研究所」の全国調査によると、
「夜中」は午後11時台から午前2時台
なっています。
辞書には、夜の間、夜分、一晩中、終夜、
宵の終わりから暁の始まりに至るまでの間と、
夜の比較的長い時間帯を表す時に使われます。
 
真夜中
「真夜中」は、「夜中」であることを
強調したい時に使われます。
「正午」の反対の「正子」(午前0時)が
夜の中間地点となるため、
午前0時の前後30分間位を指すことが多いが、
「夜中」よりも更に遅い時間と捉えて、
午前3時頃を指すこともある。
 
深夜
「深夜」は、意味合いとしては
「真夜中」と同義ですが、
使い分けとしては、
「真夜中」は単体で使用されるのに対して、
「深夜」は他の言葉と合わせて使用することが
多いです。
例えば「深夜営業」「深夜労働」「深夜料金」
「深夜放送」「深夜アニメ」などです。
 
「労働基準法」では、午後10時~午前5時まで
「深夜業」としており、この時間帯を基準に、
タクシーなど一部のサービス業では
「深夜割増料金」を徴収しています。
 
「風俗営業法」では、午前0時~日の出まで
「深夜」としています。
 
各地方公共団体の「青少年保護育成条例」では、
青少年単独の「深夜外出禁止時間」を、
午後11時~午前4時までと規定しているところが多いようです。
テレビやラジオの「深夜放送」は、
午後11時もしくは午前0時~午前5時頃まで
時間帯を指すのが一般的です。
 
夜更け
「夜更け」は、夜が更けることで、
時間が経過して真夜中に近くなる、
「深夜」とほとんど同じ意味を持ちます。
これといった時刻を指す時に使われることは
ないようです。
 
未明
「未明」は「未だ明けきらない」と書く通り、
夜がまだスッキリとは明けない時間、
明け方に空が白み始める前の時間帯と
しています。
普段の会話でも使用されますが、
どちらかと言うと、報道や天気予報など
テレビ放送で耳にすることが多い言葉です。
 
気象庁が定める予報用語では
「未明」は午前0時~午前3時頃までと
明確に時間が定められています。
報道でも「未明」と言えば、
午前0時から午前3時頃を指すようです。
 

「夜半の月」(よわのつき)

 
月は季節を問わず見ることが出来るものですが
「夜半の月」(よわのつき)は、
特に秋の真夜中に見える美しい月を指し、
現在でも秋の季語として
俳句や詩歌に用いられています。
 
紫式部の「夜半の月」
百人一首の57番にも選ばれている
紫式部の有名な歌に次のようなものがあります。
 
「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬまに
 雲隠れにし 夜半の月かな」
 
「折角、久し振りにめぐり逢えたのに、
 貴方なのかどうかも分からないうちに
 雲に隠れてしまった夜半の月のように、
 貴方は慌ただしく帰ってしまいましたね」
という意味です。
 
唱歌『秋の夜半』(あきのよわ)
 
秋の夜半(よわ)の み空澄みて
月のひかり 清く白く
(かり)の群の 近く来るよ
一つ二つ 五つ七つ
 
家をはなれ 国を出でて
ひとり遠く 学ぶわが身
親を思う 思いしげし
雁の声に 月の影に
 
『秋の夜半』(あきのよわ)は、
ウェーバーが作曲した「魔弾の射手序曲」に
歌人・国文学者の佐々木 信綱が詞を付けた
明治43(1910)年に発表された「中学唱歌」です。
このメロディーは、讃美歌285番の
『主よ御手もて 引かせ給え』としても
歌われています。
 
澄んだ秋の夜空に、月が白く清らかに輝く中、
雁の群が空を舞うのを眺めながら、
一人物思いに耽る人物の物憂げな心境が
描写されている歌です。