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七十二候「蟄虫坏戸」

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「むしかくれてとをとざす」
と読みます。
 

「蟄虫坏戸」とは?

「蟄」「坏」「戸」には、
それぞれ次のような意味があります。
 ・「蟄」:隠れる・冬ごもりをする
 ・「坏」:塞ぐ・閉ざす・埋める
 ・「戸」:片開きの扉
 
ということから、「蟄虫坏戸」は、
春から夏に活動していた虫達が、
冬眠するために掘った穴に入り、
その穴を塞ぐという意味になります。
 
昆虫達がいなくなることから、
それらをエサにしている
爬虫類や両生類などの小動物達も
冬眠して越冬します。 
 
生き物達は、寒い季節の到来を自ずと察知して、
土の中などで冬眠や冬ごもりをして、
これから約半年間、秋と冬が通り過ぎるのを
じっと静かに待ち続けます。

そして来春の「啓蟄」初候「蟄虫啓戸」の頃に
再び穴を開いて顔を出します。
 

昆虫ではない生き物なのに、
なぜ漢字に「虫偏」がつくのか?

 
通常、「虫偏」のつく漢字は、
昆虫などの「虫」を表すものとされています。
 
ところが、
「蛙」「蜥蜴」「蛇」などの「爬虫類」、
「蛤」「蜆」「浅蜊」などの「貝類」、
「蝦」「蟹」「蝦蛄」などの「甲殻類」、
更には自然現象の「虹」など、
一見、「虫」とは関係なさそうなのに、
漢字で書くと「虫偏」がくっついたものが
ありますが、どうしてなのでしょうか?
 
今では「虫」と言うと、
普通は「昆虫」を指しますが、
それは生物の発生学が進歩して、
分類学が整備された結果のことです。
18世紀まで、「虫」についての認識は、
西洋でも東洋でも似たようなものでした。
 
古代中国「象形文字」
そもそも「虫」という漢字は、
物の形を象って出来た「象形文字」で、
この漢字の元となった生き物は
実は「ヘビ」でした。
古代中国では、
「人」「魚」「鳥」「獣」以外のものを、
その他の意味で「虫」として分類していました。
漢字で書くと、「虫偏」が付くものが、
それに当たります。
 
なお現在の「昆虫」を意味した漢字は、
小さな虫が集まっている様子を表した
「蟲」でした。
 
日本

日本では昔、地面を這ったり
その辺を飛んだりしている小さな生き物を
みんな「ムシ」と呼んでいました。
江戸時代の百科事典『和漢三才図会』の
「蟲」という項目には、
ハチもムカデもカタツムリも含まれています。
 
ところが後に西洋科学が入ってくると、
生き物は形で分けられるようになりました。
そして一般的に「虫」と言えば、
体が3つの節に分かれた
6本脚の生き物
「昆 虫」
を指すようになったのです。
 
ダンゴムシ(甲殻類)やゾウリムシ(原生生物)など、
「昆虫」ではない生き物にも
「ムシ」と付くものがたくさんいますが、
これは昔からの呼び名の名残りなのだそう
です。
 
フランス
不思議なことに、洋の東西を問わず、
感覚的な「虫」に対する概念は
同じだったようです。
同じ頃のフランスでも、
トカゲやクモやザリガニやミジンコは
「虫」として扱っていました。
これはみんな漢字で書くと「虫偏」が付きます。
どうやら得体のハッキリしないものは、
みんな「虫」にされたようです。
 
「虹」の漢字に「虫」がつく理由

 
古代中国では、「大蛇」が天に昇って
「龍」になると考えられていました。
そして「虹」は、
「龍」になる「大蛇」が天空を貫く時に
空に作られるものと想像されていたため、
「蛇」を表す「虫偏」に
「貫く」を意味する「工」の字で
「虹」という漢字が出来たのです。
 
因みに、古代中国では、
「虹」は不吉なものの象徴で、
「虹」が出ると良くないことが起こると
信じていたようです。
 

穴惑い

「蛇穴に入る」(へびあなにいる)

 
「蛇穴に入る」という季語があります。
夏に野山を徘徊していた「蛇」(へび)が、
寒くなり穴に入って冬眠することを言います。
 
「蛇」(へび)は冬眠する生き物で、
春の彼岸頃に穴を出て、
秋の彼岸頃に穴に入ると言われます。
一つの「蛇の穴」には、
どこからともなく集まってきた蛇が
数匹からが数十匹絡み合いながら
暖を取るようにして冬眠します。
 
「穴惑い」(あなまどい)

 
一方、秋の彼岸を過ぎて、冬眠すべく
仲間はほとんど穴に入ってしまったのに、
まだ冬眠する穴に入らずに
いつまでも地上を徘徊している蛇のことを
「穴惑い」と言います。
 
実際に蛇が穴に入って冬眠するのは、
もっと寒くなってからだと言います。
また、冬眠しても、
温かい日には穴から出てくるのですが、
その姿がまるで冬眠の穴を探しているように
見えたのでしょう。
 

残る虫(のこるむし)

 
晩秋から初冬にかけて、
秋の虫が細々とした声で
絶え絶えに鳴いている様子をいった
季語です。

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