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七十二候「蒙霧升降」

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「ふかききりまとう」
と読みます。
 
深い霧が立ち込める頃となりました。
残暑厳しい日が続きますが、
朝夕は少しずつ涼しくなり、
ひんやりとした空気が
季節の移り変わりを教えてくれます。
 
早朝、水辺や森では、
視界が遮られるほどの霧が立ち込め、
幻想的な風景が見られます。
「蒙霧升降」はそんな様子を表しています。
 
『古事記』には、霧の神がペアで登場します。
伊邪那岐命・伊邪那美神の御子神である
山の神・大山津見神と野の神・鹿屋野比売神から
生まれた御子神、
天之狭霧神(あめのさぎりのかみ)
国之狭霧神(くにのさぎりのかみ)です。
『古事記』にはこの二柱の神がどのような神であるかについては詳述されていませんが、
天照大御神と須佐之男命が
「誓約」(うけい)を行った際、
二神が剣や勾玉を噛みに噛んで、
狭霧(さぎり)を吹き出し、その狭霧の中から
神が生まれてきたとあります。
 
「霧」は、古くは、
四季を通じた季語として使われていましたが、
平安時代以降は、
春に起きる同じ現象を「霞」と呼び、
「霧」は秋のものとなりました。
のどかな「霞」に対し、「霧」は冷ややかです。
 

 
ところで、大気中の水蒸気が
モヤモヤ~っと立ち込めている様子を
きり」「もや」「かすみと言いますが、
その違いをご存知でしょうか。
 
「霧」(きり)と「靄」(もや)は、
大気中の水蒸気が微小な水滴となって
浮遊して視界が悪くなることで、
現象としては同じもので、
どちらも「気象用語」です。
 
水平方向に見通せる距離により、
1km未満の状態を「霧」、
1km以上10km未満を「靄」と
呼びます。
つまり、「霧」の方が
「靄」よりも視界が悪い状態を言います。
 
一方、「霞」(かすみ)は、
空気中の水滴や他の粒子によって
視界が悪い状態のことで、
こちらは「気象用語」ではありません。
 

(きり)
気象用語。
大気中の水蒸気が
微小な水滴となって視界が悪くなり、
見える範囲が
1km未満になっている状態のこと。

 

(もや)
気象用語。
大気中の水蒸気が
微小な水滴となって視界が悪くなり、
見える範囲が
1km以上10km未満の状態のこと。

 

(かすみ)
気象用語ではない。
空気中の水滴や他の粒子によって
視界が悪い状態のこと。

 
 
「霧」は、水蒸気を含む空気塊が
① 気温の下降、② 水蒸気の増加のいずれか、
あるいは両方が重なって、
水蒸気が飽和した時に発生します。
そして発生原因により、
「移流霧」「蒸気霧」「滑昇霧」「前線霧」「放射霧」の
5つに分けることが出来ます。
 
 
「移流霧」(いりゅうぎり)[Advection Fog]
「移流」というのは気象用語で、
空気の塊が水平に横移動することを
言います。
 
暖かい空気が、
温度の低い地面や海面を移動する時に
冷やされて、発生する霧です。
 
春から夏にかけて、
三陸沖から北海道東方沖の冷たい海域には
暖かく湿った空気が入ってきて発生する
「海霧」が代表的なものです。
「海霧」が発生した海域では、
船舶にとっては大きな障害となる他、
北日本ではこの霧が流れ込んでくると、
気温が上がらなくなり「冷害」となります。
 
 
「蒸気霧」もしくは「蒸発霧」[Steam Fog]
温かい水面から蒸発している水蒸気が
冷たい空気によって冷やされて発生する
湯気のような霧です。
寒い戸外で吐く息が白く見えるとか、
ヤカンの吹き出し口で発生する湯気と
同じ原理です。
 
降雨による「雨霧」、
空気の冷たい冬の川に発生する「川霧」、
朝早く湖や川面にかかる霧、
冬の日本海で対馬暖流の上を
冷たい季節風が吹く時に出来る霧も
それらと同じ原理で出来ます。 
  
 
「滑昇霧」(かっしょうぎり)[Upslope Fog]
水蒸気を含んだ空気が
山の斜面を這い上がり、
上昇気流によって出来る霧です。
遠くからだと、山頂付近に
雲がかかっているように見えます。
 
 
「前線霧」(ぜんせんぎり)[Frontal fog]
前線に伴って発生する霧です。
温暖前線から降る比較的暖かい雨が、
前線の下にある寒気内で
一旦蒸発して水蒸気となり、
それが再び冷やされて出来た
「霧」のことを言います。
 
身近な現象としては、
閉め切った風呂場でシャワーを使うと
湯気がたちこめる現象と同じです。
シャワーの暖かい水滴が蒸発して
風呂場の空気が過飽和になって、
霧が発生するのです。
 
通常は地上で発生する霧ですが、
山から霧が下りてくるような現象を
「逆さ霧」と言ったりします。
 
 
「放射霧」(ほうしゃぎり)[Radiation Fog]
秋から初冬の風が弱く晴れた日の夜は、
「放射冷却」によって地面が冷えます。
明け方近くになると、
地表面近くの空気の温度が下がり、
水蒸気が凝結して「霧」が発生します。
これが「放射霧」です。
山間部の盆地には冷気が溜まりやすいので、
「放射霧」が発生しやすくなります。
 
日の出以降は気温が上がるので、
霧粒は蒸発して「霧」は消えてしまいます。
 
なお、風が強い日や曇の夜は、
「放射冷却」の影響が弱まるので、
「放射霧」は発生しにくくなります。

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