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七十二候「腐草為螢」

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「くされたるくさほたるとなる」
と読みます。
 
梅雨を迎え、水辺の湿った草陰から、
「蛍」が幻想的な光を放ちながら
飛び始める頃となりました。
 
 

「腐草為螢」とは

「腐草為螢」(くされたるくさ ほたるとなる)とは、
「腐った草が蒸れ、蛍になる」という意味
です。
 
「腐草(朽草)」(くちくさ)とは、
「蛍」(ほたる)の異名です。
 
「蛍」(ほたる)は、
一年近くを幼虫として水の中で過ごし、
土が柔らかくなる雨の日に水から上がり、
土にも潜り込み、そこで蛹(さなぎ)になり、
数週間を土の穴の中で過ごします。
そして梅雨の始め頃に羽化し、
その後、暑くなり湿気で蒸れて
腐りかけた草(腐草=朽草)の下で
明かりを灯し始めることから、
「朽ちた草が蛍になる」と表現したのです。
 

「蛍」と日本文化との関わり

世界には約2000種、
そのうち日本には約40種の蛍がいます。
実は陸生の方が圧倒的に多く、
幼虫期を水中で過ごす種はごく僅かです。
水性ホタルの棲息は、湿潤な東南アジアに
集中しているため、水のある環境、
つまり蛍は水田とともに進化してきたと
考えられています。
 
奈良時代の「蛍」
「蛍」と日本文化との関わりは古く、
「蛍」が登場する最も古い文献は、
720年に作られた『日本書記』になります。
また同時代に出来た我が国最初の歌集
『万葉集』には、長歌にわずか一首だけですが
「蛍」が登場しています。
 
この月は 君来まさむと
大船の 思ひ頼みて
いつしかと 我が待ち居れば
黄葉の 過ぎてい行くと
玉桙の 使の言へば
蛍なす ほのかに聞きて
大地を ほのほと踏みて
立ちて居て ゆくへも知らず
朝霧の 思ひ迷ひて
丈足らず 八尺の嘆き
嘆けども 験をなみと
いづくにか 君がまさむと
天雲の 行きのまにまに
射ゆ鹿の 行きも死なむと
思へども 道の知らねば
ひとり居て 君に恋ふるに
音のみし泣かゆ

《意訳》
今月こそ愛しい君が来てくれると頼もしく思ってたのに、人伝てに「無くなった」と聞いて 地団駄踏んで立っても座っても、君が去った場所が分からず、迷って、長い溜息ついて、どこかに君がいないかと探しに行きたいけど黄泉の国への道が分からなくて、 独りで君を恋しく声をあげて泣いています。
 
平安時代の「蛍」
「蛍」が身近になるのは、平安時代からで、
『伊勢物語』を始めとして、『宇津保物語』
『枕草子』『源氏物語』などに、続々と登場してきます。
 
『源氏物語』には、
蛍を鑑賞する様子が描かれたシーンがあり、
どうやら風習としてはこのあたりから
楽しまれているものだったようです。
 
「蛍狩り」という言葉が生まれたのは江戸時代
夏の宵、幻想的な光を放つ蛍の舞う姿を眺める「蛍狩り」(ほたるがり)は日本の夏の風物詩です。
 
「蛍狩り」(ほたるがり)という言葉が登場したのは、
江戸時代初期と言われています。
江戸中期になると、
「蛍狩り」(ほたるがり)を季語とした俳句が
多く詠まれるようになっていきます。
 
今で言う『観光ガイド』のようなものも
出版され、「蛍狩り」の名所が紹介される
ようにもなりました。
このように、「蛍狩り」は江戸時代にはかなり
メジャーなイベントとなっていたようです。
 
「蛍狩り」と言っても、
蛍を捕まえることではありません。
「狩り」という言葉には、
動物などを捕まえるという意味の他に、
「紅葉狩り」などと同じように
「季節の風物を楽しむ」、「鑑賞する」という
意味があります。
 

蛍の生態

蛍の一生は短く、儚い
蛍の生涯は約1年で、そのほとんどは幼虫期。
幼虫期の約10か月間は、水の中で過ごし、
陸に上がって40~50日間は、
(さなぎ)になって土の中で過ごします。
羽化して成虫になったら概ね1~2週間程度で、
オスが飛んで発光しながらラブコールを送り、
それに応えてメスが光れば「婚約成立」で、
オスがメスのもとに飛んでいきます。
そして「結婚」。
「産卵」をした後2~3日で、その短い生涯を
終えます。
 
私達が目にする蛍の乱舞は、子孫を残すために
必死にパートナーを探す姿だったんですね。
その儚くも、精一杯、命をかけた恋のときめきが伝わり、心を奪われてしまうのでしょうか。
 
蛍の光
「蛍」と言えば「光る」と思っていますが、
幼虫の時は発光するものの、
実は、成虫の多くは発光しないのだそうです。
ほとんどの蛍は一生を陸上で過ごし、
昼間に活動するため、
光ではなく匂いを発しているそうです。
 
「蛍狩り」の主役である「ゲンジボタル」と「ヘイケボタル」のように、長い幼虫期を
水中で過ごし、成虫してから発光する種類は、
珍しいのだそうです。
 
蛍の腹部の後方には発光する器官があって、
そこが光を放っています。
オスは光を発しながら飛び、
メスは葉や草の上などで弱い光を放ちます。
オスとメスが出会って、意気投合すると
強い光を放つそうです。
これで「婚約成立」という訳です。
 
ヒーリング(癒し)効果
水辺や野の暗がりに浮かんでは消える
夏の夜を幻想的に照らし出してくれる
「蛍」の光には、
「1/fの揺らぎ」と呼ばれる
「ヒーリング(癒し)効果」があると言われて
います。
 
自然界には、多くの「揺らぎ」が溢れています。
心臓の音、ロウソクの炎の揺れ、波の感覚、
雨音・・・いずれも一定のようでいて、
実は予測出来ない不規則な揺らぎがあり、
それが「1/fの揺らぎ」です。
 
"1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)とは、
パワー(スペクトル密度)が周波数 f に
反比例するゆらぎのこと。
ただし f は 0 より大きい、有限な範囲をとる
ものとする。
・・・[中略]・・・
自然現象においても見ることができ、
具体例としては人の心拍の間隔、ろうそくの炎の揺れ方、電車の揺れ、小川のせせらぐ音、目の動き方、木漏れ日、蛍の光り方などがある。
・・・[中略]・・・
人間の生体は五感を通して外界から1/fゆらぎを感知すると、生体リズムと共鳴し、自律神経が整えられ、 精神が安定し、 活力が湧くと考えられている。
 
 

「蛍狩り」の楽しみ方

ストレス社会の現代人は、
積極的に自然の癒しを取り入れたいものです。
特に6月は、「蛍狩り」関連のイベントが多く催されているようですので、
お出掛けになってみてはいかがでしょうか。
 
「蛍狩り」の時期や条件
「蛍狩り」が出来る期間は毎年初夏の季節だけ。
更に、地域や気候、平地か山地など
環境の違いによって変わります。
 
● 飛翔する時期(例年)
 ・西日本:5月中旬~6月
 ・東日本:5月下旬~7月上旬
 
● 飛翔しやすい時間帯
 ・およそ19時~23時
 ・激しく乱舞するピークは
  19時頃から約1時間
 
● 天候条件
 湿気が多く、風の少ない夜に
 よく飛び回ります。
 雨が降る前と後、曇り空や月明かり
 のない新月の頃が狙い目です。
 

weathernews.jp

 
蛍狩りの名所
[ホタル観賞・蛍まつりなどイベントスポット]
■宮城県東和町
鱒淵川
6月下旬~7月上旬。
ゲンジボタルの群生地として国の天然記念物に指定されています。
 
■栃木県日光市
令和5(2023)年6月3日、7月1日に
「ホタル観賞会」開催
 
■群馬県利根郡みなかみ町
月夜野
6月下旬頃、「ホタル鑑賞の夕べ」があります。
 
■埼玉県秩父郡小鹿野町
6月下旬~7月上旬。
 
■千葉県いすみ市
5月下旬~6月中旬。
ゲンジボタルの生息地「山田地区」。
 
■千葉県君津市
5月下旬~7月上旬まで、
ゲンジボタル、ヘイケボタルが観賞出来ます。
 
■東京都文京区
5月下旬~6月末にかけ「ほたるの夕べ」開催。
 
■東京都清瀬市
自然繁殖の蛍もいますが、6月には保護されている蛍を鑑賞することもできます。
 
■東京都稲城市
6月~7月にかけ、「ほたる鑑賞」イベント開催。
 
■神奈川県横浜市中区
三渓園
5月中旬頃から「蛍の夕べ」開催。
 
■静岡県伊豆市
5月下旬頃から「ほたるの夕べ」開催。
 
■静岡県伊東市
松川湖
6月に「ほたる観賞会」が開催。
 
■長野県辰野町松尾峡
6月中旬に「ほたる祭り」開催。
明治時代から知られる蛍の名所。
 
■長野県池田町
令和5(2023)年6/30~7/2、7/7~9
「花見ほたる祭り」開催。
 
■名古屋市中区
「名古屋城外堀」
5月下旬~6月上旬。
陸に住むヒメボタルを見ることが出来ます。
 
■三重県伊賀市
 
■岐阜県大垣市 金生山明星輪寺
令和5(2023)6月3日、6月10日
 
■滋賀県天野川流域
米原市長岡周辺は
国の特別天然記念物に指定されています。
 
■京都府京都市各地
6月上旬。
「哲学の道」や「祇園白川沿い」など、
名所が点在しています。
 
■奈良県奈良市
東大寺の二月堂裏参道、大湯屋周辺に
ゲンジボタルの群生が観られます。
 
■兵庫県朝来市
 
■兵庫県養父市
祭は毎年6月中旬
 
■岡山県真庭市
6月上旬~下旬。
環境省の「ふるさといきものの里100選」。
 
■広島県竹原市小梨町
「おなし名水」が湧き出るほたるの里。
毎年6月に「ホタルまつり」開催。
 
■鳥取県鳥取市
5月下旬~6月上旬。
国の重要文化財「樗谿神社」(おうちだにじんじゃ)
の境内を流れる樗谿川にゲンジボタル、
ヘイケボタル、ヒメボタルが生息しており、
鳥取市ホタルの里と呼ばれています。
 
■山口県 道の駅・蛍街道西ノ市
令和5(2023)6月7日(水)~24日(土)
 
■愛媛県大洲市柳沢地区
6月1日~15日。
矢落川流域はゲンジボタルの発生地として
愛媛県の天然記念物に指定。
 
■高知県四万十市
5月下旬~6月中旬。
佐田の沈下橋周辺などで観賞出来ます。
 
■大分県佐伯市
5月中旬~6月中旬。
西日本最大級とも言われる蛍狩りスポット。
 
■長崎県新上五島町・相河地区
令和5(2023)5月27日~6月11日
 
■沖縄県島尻郡
4月中旬~5月中旬。
4月下旬に「ホタルまつり」開催。
県指定天然記念物「クメジマホタル」を
鑑賞出来ます。
 
 
蛍狩りのマナー
幻想的な「蛍」の光を
この先も見続けられるように、
観賞などに行く際には、細心の注意を払って
そっと静かに見守るようお願いします。
 

1.蛍狩りは蛍を愛でるもの。
  触ったり、捕まえたりするのは厳禁!

2.光は厳禁!
  音が出るものもダメ!
  静かに干渉しましょう。

3.生息エリアを汚さない!
  蛍が生息出来る環境を保ちましょう。
  草むらに立ち入ったり、
  川を汚したりしない!

4.ホタルは虫。
  虫除けをする場合は、
  顔など最小限にとどめましょう。
  香りの強い物も持ち込まないように!

5.歩きやすい靴、長袖・長ズボンが基本!
  帽子や手袋、タオルで首回りを覆う等
  肌の露出が少なくするといいでしょう

 

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