うまずたゆまず

コツコツと

野焼き・山焼き

 
早春、野原の枯れ草などを焼くことを。
春先の晴天で風のない日に、
新芽が出る前に野山の枯草を焼くことを
「野焼き」「山焼き」と言います。
「野焼き」「山焼き」は春の季語で、
全国各地で行われる日本の伝統行事です。
 
 

野焼き

「野焼き」とは
早春の晴れた穏やかな日に、
野や土手などを焼き払うことを
「野焼き」と言います。
 
古代の「焼き畑農法」の名残りであり、
土地を肥やし、
草木の芽立ちを促す効果があります。
畑に残った旧年の草木をそのまま残しておくと、
土の中にいる微生物達が分解してくれるのですが、
微生物は土の中の「窒素」を栄養とすることから、
土の中の「窒素」が減り「窒素飢餓」状態になり、作物を上手く育てることが出来なくなります。
実は「窒素」は「葉肥」(はごえ)とも言われ、
植物の成長に欠かせない重要な要素の1つです。
そのため「野焼き」をして枯れ草を燃やし、
土中の微生物が無理に沢山働かなくてもよい環境に整えてやるのです。
 
 
また草木が残ったままだと、その場所に
害虫が住み着いてしまう可能性が出てきます。
そこで田畑に溜まった
落ち葉や藁屑などを焚いて塵芥を始末し、
害虫を焼いてしまうことで、
田畑は清潔になり、病害虫の防除にもなります。
 
 
なお「野焼き」と同じ目的で、
田畑や畔を焼く場合には「畑焼き」、
村里に近いの山を焼くような場合は「山焼き」、
湿地のヨシ群落を焼くような場合は「葦焼き」、
土手や庭の枯芝を焼く場合には「芝焼き」など
と呼ばれています。
 
焼野(やけの)、末黒野(すぐろの)
野焼きした後の野原を「焼野」(やけの)
言います。
焼けた草木を「末黒」(すぐろ)ということから、
「末黒野」(すぐろの)とも言います。
 
焼いたばかりの焼野の下には
次の生命が控えていて、
間を置かずして芽生えが始まっています。
 
近年は「野焼き」禁止
但し近年は、その煙や悪臭などにより、
現場周辺の住民などから
クレームが出ているだけでなく、
有害物質を発生させる恐れもあり、
人の健康や環境に悪影響を及ぼしかねません。
また強風により、火事になってしまったケース
なども実際にあります。
 
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」
(廃棄物処理法)第16条の2の規定により、
一部の例外を除き、廃棄物の野外焼却は
禁止されています。
違反した場合は、「5年以下の懲役または
1000万円以下の罰金またはこの併科」と
罰則の対象となります。
 
稲わら等の農業に関する焼却は
認められていますが、野焼きを行う際は、
所轄の消防署への届出が必要ですし、
前提として周辺地域の生活環境に与える影響を
少なくする必要があります。
 

山焼き

 
春先の晴天で風のない日に
村里に近い山を焼くことを「山焼き」と言います。
かつて日本の山村には、村人が草や芝を刈り、
鳥や獣の狩りをするための里山がありました。
 
 
里山はそれぞれ、
草刈山、萱山、柴山、萩山などと呼ばれ、
春先、枯れ木や枯れ草を焼くことによって、
牛馬の飼料や刈敷(緑肥)を作るために、
または草木の目立ちを盛んにするために
火を放って里山を焼きました。
そして山焼き後の黒焦げの山のことを
「焼山」(やけやま)と言いました。
 
しかし高度経済成長時代以降、
山里山の開発、
建材用の杉やヒノキの植林が進み、
焼山を見かけることは少なくなりました。
 

畑焼き(はたけやき)

「野焼き」や「山焼き」と同じ目的で、
田畑や畔などに残った枯れた作物や枯れ草を
焼くことを「畑焼き」と言います。
害虫の卵や幼虫を絶滅させ、
次の耕作時への掃除も兼ねていますが、
近年は、環境への影響で禁じられている
ところもあります。
 

芝焼き

 
山や土手、庭園などの枯芝を焼くことを
「芝焼き」と言います。
害虫を駆除しその灰を肥料として
芝の発芽を促すために行います。
煙が多く出るために許可を得るなど、
自然環境への配慮を求められています。
 

荻の焼原(おぎのやけはら)

 
湿地に群生し、
秋に大きな花穂をつける「荻」(おぎ)は、
かつては茅葺の屋根の材料として
広く用いられていました。
「荻の焼原」は、
野火で焼けた後の荻の原とする説、
荻の新芽が黒いことから
これを焼原に例えたものとする説があります。
 
なお「荻」は単独では秋の季語で、
その葉のそよぎに秋の訪れを感じるというのが
和歌以来の伝統になっています。
 

全国各地で行われている
「野焼き」

国立公園など自然保護区では、
二次草原環境や生物多様性の維持に
有用な管理手段のひとつとして
「野焼き」が行われています。
 
奈良「若草山焼き
毎年1月第4土曜日に開催されています。
 
奈良の「若草山」は全山芝生で覆われた
なだらかな円い丘が三つ重なった山です。
 
若草山焼き」の起こりは、
その昔、山上古墳の鶯塚に葬られた
幽霊が出て人々を恐がらせるけれど、
山を焼くと幽霊が出なくなるらしいなどの
迷信から誰とも分からない放火は続き、
近隣の寺や神社へ火が燃え広がったため、
江戸時代末期頃には若草山に隣接する
東大寺・興福寺と奈良奉行所が立ち会って
山を焼くようになりました。
 

www3.pref.nara.jp

 
阿蘇の野焼き
阿蘇の火まつり
 
美しい阿蘇の草原は、毎年行われる
「野焼き」によって守られています。
最近は、野焼き、火文字焼きや火振り神事など
をまとめて「阿蘇の火祭り」として、
阿蘇に春を告げるイベントとして
知られるようになりました。
 

onsen.aso.ne.jp

 
秋吉台の山焼き
 
秋吉台に春を呼ぶ早春の風物詩である
「山焼き」は、2月の第3日曜日午前9時30分から
火入れが開始されます。
火はドリーネの散らばる起伏を駆けて、
白い石灰岩だけ残し、
みるみる黒焦げになります。

www2.city.mine.lg.jp

 
岡山「後楽園の芝焼き
 
岡山の「後楽園」では、春を迎える準備として
園内に広く敷かれた芝を順番に焼いていく
「芝焼き」が行われています。
芝を焼くことで春の新芽の出揃いを揃えるのと、
病害虫駆除の効果もあります。
冬枯れで黄金色になっている芝が、
炎とともに漆黒へと変わって行く様子は、
この時期の後楽園の風物詩となっています。

okayama-kanko.net

 
鵜殿の蘆焼(うどののあしやき)
 
毎年2月頃、大阪府高槻市の淀川にて、
春先に蘆を焼く作業が行われています。
鵜殿の蘆は質が良く、古来、
(しょう)や篳篥(ひちりき)の吹き口として珍重され
また葭簀(よしず)の材料としても
広く利用されてきました。

www.udono-hozon.com

 
北九州小倉地区「平尾台野焼き
 
例年2月上旬から3月中旬に、
北九州市に広がる日本有数のカルスト台地の
平尾台では春の訪れを告げる
「野焼き」が行われています。

www.city.kitakyushu.lg.jp

 
宮崎県串間市「都井岬の野焼き
 
国の天然記念物に指定されている野生馬の
「岬馬」(みさきうま)が生息する
都井岬(といみさき)では、
岬馬の餌となる芝の新芽の生長を促すとともに、
ダニなどの害虫を駆除するために
野焼きが行われています。

kushima-city.jp

 
大分県別府市
扇山火まつり・十文字原の野焼き
 
大分県別府市の扇山の東側斜面や、
近隣の十文字原などは元々牧草地で、
毎年春に「野焼き」が行われています。
 
 
ここでの「野焼き」は実用的な目的以外にも、
別府に古くからある「温泉神社」に祀られている
温泉の神様達に春の訪れを知らせる目的で、
昭和51(1976)年から神事として、
従来の野焼きを発展させた
「扇山火まつり」を行うようになりました。

oitaisan.com

 
渡良瀬遊水地の葦焼き
1500haのヨシ原が真っ赤な炎に包まれる
「ヨシ焼き」は、
遊水地の貴重な湿地環境の保全や
病害虫駆除を目的に行われます。
 
箱根「仙石原の山焼き
かつて仙石原では、定期的に
「台ヶ岳の山焼き」が行われていましたが、
1970年代に一度失われてしまいました。
それを平成元(1989)年より
ススキ草原の維持を目指して再開されました。
 
静岡県伊東市「大室山の山焼き
 
伊東市「大室山の山焼き」は、
700年の歴史があると言われています。
当初は、生活のために利用する
良質な茅(かや)の生育の促進と害虫駆除の目的で
行われていました。
静岡県
「東富士演習場、北富士演習場の野焼き」
 
御殿場・裾野地区にある
東富士演習場付近のススキは
最高品質との評価があり、
飛騨高山地方の合掌造りの屋根の
葺き替えなどに珍重されてきました。
 
 
冬の風物詩の一つとして、
近年その存在を知られつつあります。
初めて見た人はその壮大さに圧倒され、
息を呑むと言われています。