「半夏生」(はんげしょう)は雑節の一つです。
雑節「半夏生」
「半夏生」(はんげしょう)とは、
七十二候では「夏至」の末候に当たりますが、
「八十八夜」と並んで
江戸時代の農民にとって重要な「雑節」でもありました。
この日は、太陽の黄経が100度を通過する、
ちょうど夏の中間地点に位置し、
「夏至」から数えて11日目に当たる日で、
今年、令和4(2022)年は7月2日 [金] になります。
半夏生の季節に咲く花
「半夏生」(はんげしょう)という呼称は、
植物の名前に由来するとされます。
「半夏生」の呼び名の由来には、2つの異なる植物が関連しています。
「半夏生」(はんげしょう)と「半夏」(はんげ)です。
「半夏生」(はんげしょう)
花穂のそばの葉が半分白いドクダミ科の多年草です。
葉が白くなる様がまるで化粧をしたように見えたことから
「半化粧」(はんげしょう)と呼ばれ、
やがて半“化粧”が転じて半“夏生”となり、
「この花が咲く頃=半夏生」とするようになったと言われています。
「半夏」(はんげ)

一方、「半夏」(はんげ)はサトイモ科の薬草で、
漢方の生薬名は「烏柄杓」(からすびしゃく)と言います。
夏の半ばに花が咲くので「半夏」とか、
「半夏生」の頃に姿が多く見られます。
生存力が強い植物で、
塊茎、種子、珠芽のいずれからも繁殖が可能であることから、
厄介な畑の雑草としても知られています。
生薬「半夏」は地下に出来る球状の塊茎を乾燥させたもので、
ホモゲンチジン酸(フェノール類)などの成分を含み、
「鎮静」「鎮吐」「鎮咳」「去痰」などの作用があります。
「からすびしゃく」という名前は、
ラッパのような「苞」(ほう)が柄杓に似ているからとも
言われています。
半夏雨(はんげあめ)
一般に「半夏生」の頃は、梅雨も終わりかけの頃になります。
「半夏生」の時期に降る雨のことを
「半夏雨」(はんげあめ)と言います。
この時期は太平洋高気圧の勢力が徐々に強まって、
日本の上空に温かく湿った空気が流れ込むため、
大雨になることが多く、
河川の氾濫や土砂崩れなどが起こることが少なくありません。
大雨により発生する洪水は
「半夏水」(はんげみず)などと言われています。
但し、「半夏雨」(はんげあめ)は、
田植えを終えて安心した田の神様が天に上る時の雨という所もあります。
農作業の大切な目安

そもそも「雑節」とは、
農作業に照らし合わされ作られた暦日です。
梅雨の終わりに当たる「半夏生」は、
田植えを済ませる目安とされた節目の日です。
半夏半作(はんげはんさく)
昔は「半夏半作」と言って、
「半夏生」までに田植えを終えないと、
秋の収穫が減る(半分になる)と言われています。
また「半夏生」は、
田植えを手伝った早乙女や借りた牛の持ち主などに
田植え賃を払う日で、
「半夏じまい」とも言いました。
「早苗饗」(さなぶり)
そして無事に田植えが終わると、
「早苗饗」(さなぶり)という行事を行ないます。
「田の神」が田植えが終わるのを見て帰る日で、
この日に田の水口や畔または床の間などに苗を供えて
田の神を祀る風習は日本各地で見られます。
また、この日の天気で収穫の出来を占ったりしました。
半夏生に食べると良いもの
「半夏生」の5日間は働くことを忌み、
天から毒が降るので井戸に蓋をして、
この日に採った野菜を食べてはいけないと言われるなど、
様々な物忌みが行なわれたり、
美味しいものを食べて農作業の疲れを癒しました。
「半夏生」に食べると良いと言われるのは、
タコ、餅、焼き鯖(さば)、うどんなどです。
そして、田んぼの神様にも供えられました。
半夏団子(はんげだんご)
「半夏生」には、「半夏団子」(または「はげ団子」)と言って、
ちょうど収穫の時期に当たる小麦の団子を頂く習わしが、
近畿・中国地方にあります。
団子は茗荷(みょうが)の葉に包まれており、
清涼感のある独特の香りとあんこの甘さが農作業の疲れを癒しました。
そして田んぼの神様にも供えられました。
茗荷の葉を使うことから「みょうがだんご」とも呼ばれている。
餅米ではなく小麦粉を使うのは、米が貴重だった時代の名残りです。
半夏生餅(はんげしょうもち・はげっしょもち・はげっしょうも)
主に大阪・南河内地方や奈良県で食されている
餅米と小麦粉で作った団子にきなこをまぶしたものです。
その昔、人々は田植え後にこの団子を作って田の神様にお供えし、
そしてその年の豊作を祈り、田植えが無事終わったことに感謝しながら
団子をいただいたきました。
当時の団子の原材料だった小麦粉は白ではなく「褐色」をし、
その小麦粉で作った赤く丸い団子は
「ネコの丸い背中」に似ていたことから、
「あかねこ餅」として親しまれるようになったそうです。
半夏蛸(はんげだこ)
関西では、
稲が蛸の足の様に沢山に分かれた増えていきますようにと願い、
半夏生に蛸(「半夏蛸」)を頂く習慣があります。
半夏生鯖(はげっしょさば)
主に福井県大野市を中心とした奥越地方では、
「半夏生」に「丸焼きの鯖」を食べる習慣があります。
これは、その昔の大野藩主が田植えが終わった農民に、
焼き鯖を食べて力を付けるよう推奨したことから始まったものであると
言われています。
これが現在まで伝わり、この地方では「半夏生には鯖」が定着しました。
鯖はスタミナが出る食べ物で、夏バテ防止には最適。
暑い夏の到来に備え、人々は鯖で英気を養います。
うどんの日
「半夏生」は、香川県では小麦の収穫時期でした。
田植えや麦刈りは大仕事のため、
隣近所や方々から人手が集まって行われたため、
農家の人は収穫したばかりの麦で打ったうどんを
手伝ってくれた人々に振る舞ったと言われています。
現在、「うどん県」として知られる香川県では、
「半夏生にうどん」が広く親しまれています。
昭和55(1980)年には、
香川県製麺事業協同組合は7月2日を「うどんの日」に認定。
県内では無料でうどんを振る舞うなど、
様々なイベントが開催されています。
虫送り
夏の田植えを終えると、
全国様々な地方で「虫送り」の行事が行われます。
「虫送り」とは、
その年の農作物の豊作をお祈りする伝統行事のことを言います。
昔は現代ほど農薬が普及しておらず、
農作物に害を及ぼす虫が後を絶ちませんでした。
そのため、害虫を追い払い、
少しでも多くの農作物が収穫出来るようにと願って行われました。
また、農作物への害虫は、
「悪霊」の仕業とも考えられていたことから、
その退散を祈る呪法といった見方もあるようです。
「虫送り」の方法は、
害虫の身代わりに例えられた藁人形を燃やしたり、
川に流したり、各地で違いはあります。
但し、近年では農薬の発達や、燃やすための火を使うことが
安全面で懸念されるために、
「虫送り」を行わない地域も増えてきています。