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七十二候「葭始生」

「あしはじめてしょうず」と読みます。

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だんだんと暖かくなり、野山だけでなく、
水辺の葭(あし)も芽を吹き始める季節です。
(あし)は、「葦 」とか「蘆」とも書き、
また「悪し」(あし)に通じることから、
「善」(よし)とも読まれます。
 

 
「葦原中国」(あしはらのなかつくに)
日本の古称です。
美称して「豊葦原中国」(とよあしはらのなかつくに)
略して「葦原国」とか「葦原」とも言います。
 
「葦原中国」(あしはらのなかつくに)は、
天上界の「高天原」(たかまがはら)
地下の「黄泉国」(よみのくに)
中間に存在するとされる場所で、
地上世界を指すと言われています。
葦が生い茂っていることが由来とされています。
 
 『日本書紀』には、
「天(あめ)と地(つち)がひらけるはじめは、
 国土が浮き漂い、
 遊漁が水の上に浮かぶようであった。
 その中から葦芽(あしかび)のようなものが生じて
 神となり、国常立尊(くにのとこたちのみこと)
 もうしました。・・」と記されています。
 

linderabella.hatenadiary.com

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「葦牙」(あしかび)
「かび」は植物の芽や穂先などの、
鋭く、細く突き出たものを指す言葉です。
「葦」は水面から角のような尖った新芽が出てくるので、このように呼ばれました。
「葦の角」とか「葦芽」とも書きます。
昔の人は、みずみずしい精気に満ちて
グングン成長していく「葦芽」(あしかび)
命の神話を重ねてみていたのでしょう。
混沌とした状態が続いても、やがてその中から、不思議なエネルギーが突き上げてくるような気がします。
 
 
他にも「浪速草」(なにわぐさ)という
呼ばれ方もされていますが、
これは「水の都」と呼ばれる
大阪に多く生育していたためで、
「葦」(浪速草)は大阪府の郷土の花に
なっています。
 
葦は北半球の気候温暖な地方の
湿地や川辺、湖沼の岸などに野生する
イネ科の大型多年草です。
高さ2〜3mに成長し、大群落を作ります。
 
若葉の頃は一斉に生育する新緑の美しい葦、
夏には黒ずんだ濃い緑の青葦、
秋には茎の先に大型の円錐花序を出し、
雄大な淡紫色に輝くアシの穂の変化を
楽しむことが出来ます。
 
葦の茎は、堅く中空(中が空洞)になっていて、
軽くて丈夫です。
かつて農家では、農閑期に葦を刈り取って、
葦簀(よしず)用に出荷したり、
茅葺き民家の屋根材や壁材、
燃料、肥料などとして幅広く利用しており、
生活になくてはならない植物でした。
 
『古事記』には、
「この豊葦原の千秋の長五百秋の瑞穂の国」
という記載があるように、
古くから日本人と葦には深い結びつきが
ありました。
 

 
根茎は「蘆根」(ろこん)という名の生薬として、
利尿、消炎、止瀉などに煎じて用いられてきました。
また、春先の葦の新芽は、食用にも使われていました。
 
 
17世紀の仏の哲学者パスカルは
遺稿集『パンセ』の中で、
「宇宙の無限と永遠に対し、
 自己の弱小と絶対の孤独に驚き、
 大自然に比べると
 人間は一茎の葦のようなもので、
 最も弱い存在である。
 しかし、人間は単なる葦でなく
 『考える葦である』」という名言を残しています。
 

 
人間の自然の中における存在としてのか弱さと、
思考する存在としての偉大さを言い表したもの
なのだそうです。

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