「むぎのときいたる」
と読みます。
初冬に蒔かれた麦が熟し、
畑一面にたっぷりと金色の穂が実り始める頃。
収穫時を迎えます。
季節は「梅雨」にさしかかる頃で、
暦の上では「初夏」に当たる時季ですが、
麦にとっては「実りの秋」であることから、
「麦の秋」とか「麦秋」(ばくしゅう)と
言います。
元々「秋(あき)」という言葉には、
穀物が成熟した収穫の時期という意味があり、
「麦」において「秋(実りの季節)」は初夏で、
「米」の「秋」は、稲穂が頭を垂れる
9~10月ぐらいと言えるでしょう。
「米」同様、古より日本人の生活の中で
重要な役割を担ってきた「麦」には、
「麦秋」以外にも様々な言葉があります。
黄金色の波のように、麦の穂を揺らしながら
吹き渡る爽やかな風を「麦嵐」(むぎあらし)、
「麦風」(ばくふう)、「麦の秋風」、
その風によりそよぐ穂を「麦の波」、
麦の種蒔きや刈入れにぴったりな日は
「麦日和」と言います。
麦が熟するこの時期に降る雨は
「麦雨」(ばくう)と言います。
麦は、雨に当たると穂の状態のままでは
発芽してしまうので、「梅雨」に入る前に
収穫しなければなりません。
「麦」は、世界中で一番多く作られている
穀物です。
「小麦」「大麦」「ライ麦」「燕麦」(えんばく)などの
種類があります。
日本では普通、「大麦」と言うと「六条大麦」のことを言います。
「大麦」は「米」などより
「繊維質」が多く含まれることから、
古くから日本独自の技術で加工され、
消化を良くして食用にされてきました。
「押麦」
大麦を精白し、蒸気で加熱し
ローラーで圧扁加工(平たく)したもの。
「胚芽押麦」
胚芽を残して精白し、
蒸気で加熱しローラーで圧扁加工したもの。
押麦に比べビタミンB1、ビタミンEを
多く含みます。
「丸麦」
大麦の外皮を取り除き、周りを削り取った
状態そのままの形をした丸い大麦です。
「ビタバレー」
丸麦を半分に割り押麦と同様に
蒸気で加熱しローラーで圧扁加工し、
更にビタミンB1・B2などのビタミン類を
添加したものです。
「米粒麦」(べいりゅうばく)
大麦の皮を剥き、
中央部の黒条線に沿って切断し
更に精麦し米粒の形状に似せて
加工したもの。
「白麦」(はくばく)
大麦を精白し、
中央部にある黒条線に沿って2つ割りにし
黒条線を取り除いててから、
蒸気で加熱しローラで圧扁加工したもの。
他には、煎って粉にした「麦こがし」や、
煎った実を煮出す「麦茶」も
日本ならではの味わいです。
「六条大麦」の突然変異で出来たものが
「はだか麦」で、「はだか麦」には
「うるち種」と「もち種」があり、
「もち麦」と呼ばれるものは、
「もち種」の「はだか麦」になります。
因みに「二条大麦」は
ビールの原料になる品種で、
「ビール麦」とも呼ばれています。
日本では、麦の種撒きは秋から初冬にかけて
行われます。
秋撒きの麦は、寒い冬を越さないと
穂を出さない性質があるからです。
芽が出て、ある程度成長したところで行われるのが、日本独特の農法である「麦踏み」です。
麦の上からぱらぱらと土をかけ、
麦をしっかりと踏みつけてやります。
踏むことで、霜柱で根が切れたり
風で土が飛ばされたりするのを防ぎ、
また、踏まれた刺激で寒さに強くなり、
分けつ(茎が何本にも増えること)も
進みます。
二毛作の農家では、
麦を刈り取った後に田植えが始まり、
稲刈りが終わった秋になるとまた、
麦の種撒きが行われます。