うまずたゆまず

コツコツと

七十二候「麦秋至」


「むぎのときいたる」
と読みます。
冬至の末候「雪下出麦」(ゆきわたりてむぎのびる)
対応しています。
 
 

麦 秋・麦の秋
(ばくしゅう・むぎのあき)

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日本では、稲作の裏作として
「麦」を作ってきました。
 
稲刈りが済んだ10月から11月、
田を鋤起こして土塊を砕き畝を立て、
筋蒔きに蒔いた麦が、
4月半ばに6から9㎝の花穂が直立し、
5月半ばから6月上旬頃になると
畑一面にたっぷりと金色の穂が実り始め、
いよいよ収穫時を迎えます。
 
 
「秋」(あき)という言葉の語源は、
食物が豊かに採れる季節ということで、
「麦」において「秋(実りの季節)」は初夏で、
「麦の秋」(むぎのあき)あるいは
「麦秋」(ばくしゅう)という言葉が
生まれました。
 
 
「麦秋」(ばくしゅう)に対して、
秋の稲の取り入れの頃を
「米秋」(べいしゅう)と言います。
日本の古代の考え方では
稲の刈り上げ前夜までが「秋」で、
刈り上げの夜は「冬」でした。
 

麦の刈り入れ

 
小麦で出穂後42~45日、
大麦では出穂後38~40日目ぐらいで、
水分が35%前後になった時が
麦の収穫の時期になります。
 
この時期は、梅雨入り直前の時期で
雨が多くなり、気温も高くなるため、
収穫作業は梅雨空とにらめっこで行われます。
3日以上雨に当たると穂発芽や褪色粒が発生し、
穂発芽や品質の劣化を招くからです。
 
こうして麦刈りが終わり、
麦を作っていた畑が空くと、
6月末から7月にかけて
その畑を利用して田植えが始められます。
 

初夏の「麦」の季語

「米」同様、古より日本人の生活の中で
重要な役割を担ってきた「麦」には、
「麦秋」以外にも様々な言葉があります。
 
麦風(ばくふう)
麦の秋風(むぎのあきかぜ)
麦嵐(むぎあらさひ)
 
麦の穂をざわざわと揺らしながら
吹き渡る風のことを「麦風」(ばくふう)
「麦の秋風」(むぎのあきかぜ)
「麦嵐」(むぎあらし)と言います。
麦が熟れた黄金色に輝いた畑に
爽やかな風がさっと吹き、
五月のからっとした日の気持ち良い風です。
 
「嵐」と言えば、
それまでの農家の人の苦労を
台無しにしてしまいかねない
恐ろしい「嵐」が連想されますが、
「麦秋」に吹く「麦嵐」は、
麦の実りを祝福する心地良い風になります。
 
麦の波(むぎのなみ)
 
麦畑が風によって波打って見えることを
「麦の波」(むぎのなみ)と言います。
新緑の中、
黄金色の麦穂が風に大きく波打つ光景は、
豊穣の象徴です。
 
 
麦日和(むぎびより)
 
麦の種蒔きや刈入れにぴったりな日は
「麦日和」(むぎびより)と言います。
 
刈り取った麦の穂を落とすことを
「麦扱」(むぎこき)
竿で打ち、実を落とす穂から実を取る
「麦打ち」(むぎうち)を経て、
ようやく今年の「新麦」が収穫されます。
 
麦雨(ばくう)
 
前にも触れた通り、麦が実る頃は、
梅雨入り直前の時期で雨が降りやすく、
「麦秋」の頃に降る雨を
「麦雨」(ばくう)と言います。
 
麦熟れ星(むぎうれぼし)
麦を刈り入れる頃、日没後の空には
牛飼座の一等星「アークトゥルス (Arcturus)」が
オレンジ色に輝きながら南から昇ってきます。
 
ちょうど麦の刈り入れ時に当たることから、
「麦熟れ星」とか「麦星」と言います。
また梅雨期の頃にも当たることから、
「五月雨星」(さみだれぼし)とも言います。
 
「アークトゥルス (Arcturus) 」は、
ギリシア語で「熊の番人」の意味があり、
その名の通り、いつもおおぐまのしっぽを睨み
離れようとしません。
春の大曲線・春の大三角を構成する
星のひとつです。
 
 

「麦」について

 
「麦」は、世界中で一番多く作られている
穀物です。
「小麦」「大麦」「ライ麦」
「燕麦」(えんばく)などその種類は数多く、
全てイネ科に属する植物です。
 
 
日本では主に「大麦」と「小麦」が
作られています。
弥生時代の中末期には、
畑で作られていたことが分かっていて、
奈良時代には日本各地で広く栽培されました。
鎌倉時代に「二毛作」が普及した後は、
寒冷・乾燥に強く、手間の掛からない
「大麦」の栽培が米の裏作として広がりました。
 
 
「二条大麦」と「六条大麦」
「大麦」には、外皮が硬いため、
剥けにくい「皮麦」と剥けやすい「裸麦」があり、
それぞれに結実する穂の数により、
「二条大麦」と「六条大麦」があります。
更に、含有されるアミロースの割合により、
粘りの少ない「うるち性」と
粘りが強い「もち性」に分けられ、
「もち性」は通称「もち麦」と呼びます。
 
 
 
「二条大麦」は、6列ある穂のうち2列のみに
大粒の実がなるため「大粒(だいりゅう)大麦」
とも呼ばれています。
明治初期にビール醸造を目的に導入され、
現在では焼酎の原料にもなっています。
 
 
 
「六条大麦」は、
6列ある穂全てに小粒の実がなるため
「小粒(しょうりゅう)大麦」とも呼ばれています。
日本では普通、「大麦」と言うと
「六条大麦」のことを言います。
大麦は米などより繊維質が多く含まれるため、
古くから日本独自の技術で加工され、
消化を良くして食用にされてきました。
 
他にも、煎って粉にした「麦こがし」や、
煎った実を煮出した「麦茶」も日本ならではの
味わいです。
 

 
「押麦」(おしむぎ)

最もスタンダードな大麦で、
大麦を精白し、蒸気で加熱し
ローラーで圧扁加工(平たく)したもの。
粒の真ん中にある黒条線があるのが特徴です。
「麦とろごはん」などに利用されています。
 
「胚芽押麦」(はいがおしむぎ)

独自技術により「胚芽」を残して精白した
「押麦」です。
ビタミンB1、ビタミンEを多く含みます。
 
「丸麦」
大麦の外皮を取り除き、周りを削り取った状態
そのままの形をした丸い大麦です。
プチプチ、プリプリした食感が特徴です。
 
「白麦」(はくばく)

「丸麦」の中央にある黒条線に沿って
2つに切り、黒条線を取り除いててから、
蒸した後にローラーで圧扁加工したもの。
押麦ほど黒条線が目立ちません。
 
「ビタバレー」

「白麦」を疲労回復に役立つ「ビタミンB1」で
コーティングしたもの。
他のものより少しだけ黄色いのは、
ビタミンの色です。
 
「米粒麦」(べいりゅうばく)

お米と一緒に炊いても
大麦が余り目立たないように、
お米と同じような形に加工したもの。

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