梅雨明けの頃、東京を中心に関東各地で「ほおずき市」が開かれます。
「ほおずき市」とは
「ほおずき市」は「観音信仰」と関連が深いです。
毎月18日は観音様の縁日で、この日に参拝すると、
「千日分、毎日参拝したのと同じだけの御利益、功徳が得られる」と
言われていました。
このため、毎月18日の参拝には
「千日詣」(せんにちもうで)という名前がついているほどです。
これとは別に、室町時代末期頃(16世紀半ば)からは、
18日だけではなく、仏様と縁が深いと考えられる日も
「功徳日」(くどくび)として縁日と考える風習が起りました。
「功徳日」に参拝すると、100日や4000日など、
たくさんの参拝に該当する功徳を得られると言われ、
人々はもちろん「功徳日」にこぞって参拝するようになりました。
とりわけ人気が出たのが7月10日でした。
江戸時代になると、元禄時代の頃より7月10日を「功徳日」とし、
この日にお参りをすると
「四万六千日(約126年)分のご利益がある」と言われるようになり、
人々はこぞって参拝に訪れるようになりました。
この四万六千という数字は、白米一升分が四万六千粒で、
「一生(一升)食いはぐれることなく、息災に過ごせる」ことに
由来しています。
そうなると、参拝客目当ての「市」も立つようになりました。
「ほおずき市」もそんな市のひとつです。
愛宕神社の「ほおずき市 千日詣り」
「ほおずき」は元々、
東京都港区の「愛宕神社」の「ほおずき市 千日詣り」で
薬草として売られていました。
ほおずきは煎じて飲むと、子供の癇の虫や女性の癪に効くと言われ、
江戸時代の人々は初夏の夏至の頃に、
まだ青いほおずきを神社の縁日で買い求め、無病息災を祈ったのです。
浅草寺の「ほおずき市」
やがてこれが東京都台東区の「浅草寺」に波及し、
「愛宕神社」をしのぐ活況を呈するようになりました。
更に、7月10日に一番乗りで参拝したいという熱心な人が増え、
前日の9日から意気込んだ人々が寺を訪れるようになったことから、
9、10日の2日間が「四万六千日」の縁日とみなされるようになりました。
「ほおずき市」には、毎年200もの露店が境内に軒を連ね、
威勢のよいかけ声とともに、ほおずきの鉢が売られています。
多くのほおずきの鉢には風鈴がついているのが見られます。
これは暑さを和らげるという目的の他に、
澄んだ音色で邪気払いをするという意味があります。
関西の「千日詣り」
関西では、月遅れの8月上旬に観音様の縁日が開かれ、
中でも京都の虚水寺や大阪の天王寺はよく知られています。
この日は「千日詣り」として、
一日で千日分お参りしたものとされます。
鬼灯(ほおずき)
鬼灯(ほおずき)はナス科の植物です。
ほおずきの赤い部分は、「咢」(がく)が大きく膨らんだものです。
「咢」(がく)とは、花の最も外側にあって、
花びらを支える部分のことで、葉が変化したものです。
ほおずきは薄クリーム色の花が咲き終わると、
「咢」(がく)が発達して大きくなり、
果実を包み込むように袋状になっていきます。
そして包み込んだ果実が熟すのと同じように、
「咢」(がく)も赤・オレンジ色になっていくのだそうです。
名前の由来
名前の由来には、様々な説があるようです。
代表的なものとしては、次のようなものがあります。
- ほおずきが赤く染まることから、頬を連想させることから
- ほおずきを鳴らして遊ぶ際に、頬を突き出す様子「頬突き」から
- ホホというカメムシが付きやすい植物のため、
「ホホ付き(ホオ付き)」から - 実を包んでいる部分が赤く、
火が付いて見えることから「火火着」(ほほつき)
鬼灯提灯
「ほおずき」は、日本で昔から栽培されている植物です。
『古事記』や『日本書紀』にもと、
八岐大蛇(やまたのおろち)の瞳が赤いことを
「あかかがち」(=ほおずき)を用いて表現しています。
その「鬼灯」(ほおずき)は、ふっくらした形と炎の様なオレンジ色から、
「鬼灯」の文字からも分かるように、
お盆に帰ってくる御先祖様や精霊が迷わずに帰って来れるように
灯りとしての道標になる様に提灯(ちょうちん)に見立てられ、
「鬼灯提灯」(ほおずきちょうちん)が使われ、
また仏壇や盆棚、精霊棚に飾られてきました。
盆踊りや夏祭りで用いられる提灯も同じ意味合いを持ち、
道標としての灯(あか)りとして灯(とも)されます。
御先祖様は体を持っていないため空洞を探し、
お盆の4日間は鬼灯の空洞の中に身を宿して過ごすと言われています。
薬用
「ほおずき」は、
平安時代から薬として利用されてきた歴史を持ちます。
当時の薬草辞典『本草和名』の中にも、
薬草としての効能が記録されています。
漢方医学では、咳止めや解熱、利尿の薬として
熱や黄疸の時に用いられています。
子供の夜泣きやひきつけ、
大人のお腹や胸の痛みを和らげる効能があるとされていました。
Chinaでは、根が「酸漿」(さんしょう)という生薬名で知られています。
また、鬼灯の根には子宮を収縮させる作用があり、
妊娠中に食べてしまうと流産を引き起こす恐れもあります。
これは、株全体に含まれるアルカロイドの毒性によるもので、
江戸時代には堕胎剤として使われました。
食用
「ほおずき」は、ヨーロッパなどでは「食用」として栽培されてきました。
中の丸い実を食べるのですが、
それは英語名「Strawberry Tomato」にあるように
まさにベリー類にも似た味わいだそうです。
日本でもここ数年、珍しいフルーツとして徐々に知られるようになり
栽培を本格的に始めた地方も増えてきているようで、
「ストロベリートマト」「フルーツホオズキ」
「ほおずきトマト」「オレンジチェリー」など、
産地や生産者によって色々な名称で出荷されています。
「食用ほおずき」は、
「イノシトール」というビタミンBの1種を豊富に含み、
体内に脂肪を溜め込まないようにする働きがあるとされています。
赤トウモロコシ
「ほおずき市」では、ほおずきが売られる前には、
文化年間(1804~1818年)頃には、
「赤トウモロコシ」が売られていたという話もあります。
「赤トウモロコシ」は雷除けの意味があったそうです。
しかしながら、明治初期、
「赤トウモロコシ」は不作で売ることが出来なかったため、
浅草寺では雷除けの護符をトウモロコシの代理で配布したこともあったようです。