「初午」(はつうま)とは、
2月最初の「午」(うま) の日のことで、
全国各地の稲荷神社や稲荷の祠では
お祭りが行われます。
稲がなることを意味する「稲生り 」から、
五穀豊穣や商売繁盛、家内安全を祈願して、
令和7(2025)年の「初午」は2月6日 [木] で、
「二の午」は2月18日 [火] です。
「初午」(はつうま)とは

2月に初めて迎える「午」(うま) の日を
「初午」(はつうま)と言います。
この日、京都の「伏見稲荷大社」を始め、
全国各地の稲荷神社や稲荷の祠(ほこら)では
お祭りが行われます。
このように「初午」の日にお参りすることを
「初午詣」(はつうまもうで) とか言います。
また都の巽 (東南) の方角にあった
「伏見稲荷大社」は人々に福を授ける神様と
信じられため「福参り」とも言います。
稲荷の祭りの日を待っていた庶民の心情から、
「稲荷待ち」とも言います。
由来

約1300年前、奈良時代の
和銅4(711)年の2月11日(または9日)の初午の日、
京都の「伏見稲荷大社」の祭神が、
午 [馬]に乗って伊奈利山(いなりやま)に
降臨したという言い伝えに由来して
毎年2月「初午」の日に
「稲荷神」のお祭りをするようになりました。
「稲荷様」は、本来、穀物を司る神様で、
稲荷の文字は、「稲成、稲生」(いねなり) が
転じたものというだけでなく、
五穀の中でも特に稲を司る
「倉稲魂」(うかのみたま)を祀るため、
「初午」の日には春の農事に先駆けて
五穀豊穣を祈願したのです。
なお「初午」に参詣出来なかった時には
「二の午」「三の午」に参詣します。
京都・伏見稲荷大社の主祭神で、
一般に「稲荷神(お稲荷さん)」として広く
信仰されています。
農耕の神・商工業の神・商売繁盛の神としても信仰されていて、全国の稲荷神社で祀られています。
名前の「ウカ」は穀物・食物の意味で、
「穀物の神」様です。
『古事記』では宇迦之御魂神、
『日本書紀』では倉稲魂尊と表記されています。
須佐之男命と神大市比売(大山津見神の娘)との間に生まれ、大年神の妹神とされています。
別名、御饌津神 、宇賀御魂命 。
なお神道系の総本社は京都の「伏見稲荷」で、
仏教系の総本山は「豊川稲荷」になります。
中世に入って商工業が盛んになると、
商売繁盛の神様にもなります。
江戸時代には、
「伏見稲荷大社」の御分霊を授かり
「正一位稲荷大明神」を勧請することが
盛んになり、全国に広まりました。
今では、商売繁盛、産業興隆、
家内安全、交通安全、学問・芸能上達など
様々な幸福をもたらす神として信仰を集め、
全国各地には稲荷神社は3万社あり、
全国の神社の三分の一を占めます。
「正一位稲荷大明神」
神道における神様に授けられる
「位階」(位の高さや階級)を「神階」と言います。
正六位から正一位までの15階あります。
正一位の神社には、「松尾大社」「上賀茂神社」
「下鴨神社」「春日大社」「石上神宮」「枚岡神社」
「香取神宮」「鹿島神宮」「日吉大社」そして
「伏見稲荷大社」があります。
天長4(827)年に、淳和天皇が
突然病気で臥せられた際、病の原因を占うと、
前年建立した東寺の五重塔の用材として
伏見稲荷山の神木を伐った祟りだと分かりました。
そこで天皇はすぐに稲荷山に使者を遣わして、
それまで位階のなかった稲荷神に「従五位下」の
神階を授け、怒りを鎮められました。
更に天慶5(942)年、朱雀天皇より最高位の
「正一位」の神階を授かったことにより、
伏見稲荷大社の祭神「宇迦之御魂神 」は
「正一位稲荷大明神」と呼ばれるようになりました。
鎌倉時代、伏見稲荷大社を訪れた後鳥羽天皇が、
分霊先でも「正一位」を名乗ることを許可した
ことから、以後、伏見稲荷大社は「稲荷勧請」際、
全て「正一位」の神階を付けて分神しました。
その結果、全国の勧請を受けた稲荷神社のほとんど
全部が「正一位稲荷大明神」を名乗ることになり、
「正一位」は稲荷社の代名詞のようになりました。
縁起物の「験の杉」(しるしのすぎ)
「初午」では、多くの参拝者が
商売繁盛・家内安全のお守りとして
稲荷山の神杉 (かんすぎ) の枝
「験の杉」(しるしのすぎ) を買い求めていきます。この「験の杉」を持ち帰り庭に植え、
根付けば願い事が叶うと言われています。
平安中期以降、「熊野詣」が盛んとなっていて、
その往き帰りには、必ず「稲荷社」に
参詣するのが習わしとなっていました。
そしてその際には、「験の杉」をいただいて、
身体のどこかにつけることが一般化していた
そうです。
蚕に因んだお祭り
かつて養蚕 (ようさん) が盛んな地域では、
「初午」に蚕の神様を祀る行事も行われます。
蚕の神様である「蚕影様」(こかげさま)とか
「オシラ様」などのお祭りをしたり、
米粉を繭の形にした「初午団子」を供えて、
生計を支える蚕に感謝し、
豊蚕、豊作を祈願しました。
馬に因んだお祭り

「稲荷信仰」とは別に、
馬に因んだお祭りをするところもあります。
東北地方や東海地方には、
馬(午)の守護神「蒼前様」(そうぜんさま)や
「馬頭観音」にお参りする所があります。
実は、「蚕」と「馬」は深い関係があり、
前述の「オシラ様」は蚕神だけでなく、
馬の神とも言われています。
東北地方には、この「オシラ様」の成立に
まつわる悲恋譚が伝わっています。
『聴耳草紙』には後日譚(ごじつだん)があり、
天に飛んだ娘は両親の夢枕に立ち、
臼の中の蚕虫を桑の葉で飼うことを教え、
絹糸を産ませ、それが「養蚕」の由来になった
そうです。
火の用心
「初午」の頃は、
空気が乾燥して火事の多い時期なので、
火事に因んだ言い伝えがあります。
「初午」の日には、
消防団員が各家庭を回り、
「火の用心」を呼びかけたり、
「火の用心」のお札を配る地域があります。
この日に「火の用心」を呼びかけるのは、
稲荷神のお使いと言われる「狐」にまつわる
言い伝えがあるからです。
1匹の女キツネを巡って
2匹の男キツネが争いを繰り広げ、
負けた方の男キツネが村に火を放ち、
村人を困らせたというものです。

「初午」の日は
「寺子屋」の入門日
江戸時代、2月の初めての午の日
「初午」(はつうま) の日は、
子供が「寺子屋」に入門をする日でした。
この日、親に伴われて、
先生であるお師匠さんに挨拶に行きました。
この伝統が明治の学制に引き継がれて、
学校の入学式は「春の行事」になりました。
日本各地の初午祭
この日は、全国にある稲荷神社で
お祭りが行われます。
稲荷神社では「正一位稲荷大明神」と書いた
幟(のぼり)やを立て、
お神酒、赤飯、油揚げなどをお供えします。
屋敷に祀る稲荷祭祀の位置は、
戌亥(西北)の隅です。
稲荷神社の総本社・伏見稲荷大社の
初午大祭【京都府】
京都伏見にある「伏見稲荷大社」は、
全国にある稲荷神社の総本宮です。
参道にずらりと並ぶ「千本鳥居」で
知られています。
朱塗りの鳥居が連なっているのは、
願い事が「通る」「通った」などの意味から、
心願成就の祈念や成就の感謝を込めて
鳥居を奉納する習慣が
江戸時代以降に広がったため。
ですから「願いが通りますように」と
気持ちを込めて鳥居を潜って下さい。
そして神社の楼門前では、
神様のお使い(神使)であるキツネの像が
出迎えてくれます。
伏見稲荷大社の「初午大祭」は
「福参り(福詣り)」などとも呼ばれ、
多くの人が訪れて商売繁盛などを祈願します。
社頭で参拝者に授与されている
「験の杉」(しるしのすぎ) は
伏見稲荷大社のご神木である杉を用いた
お守りです。
商売繁盛・家内安全を願いつつ、
玄関や神棚に飾ります。
- 京都府京都市伏見区深草薮之内町68
笠間稲荷神社の
初午祭【茨城県】
日本三大稲荷の一つ「笠間稲荷神社」では
新暦と旧暦の2月に行われています。
- 茨城県笠間市笠間1
祐徳稲荷神社の
初午祭【佐賀県】
佐賀県鹿島市にある、日本三大稲荷の一つ
「祐徳稲荷神社」の「初午祭」は、
稲荷大神様が御鎮座されたご縁日に
行われます。
深夜0時より商売繁昌なども祈祷が開始され、
一日中賑わいます。
境内では、「平戸神楽」(ひらどかぐら)、
「面浮立」(めんぶりゅう)、
「一声浮立」(いっせいぶりゅう)の他、
民謡などが奉納されます。
- 佐賀県鹿島市古枝乙1855
冠稲荷神社の
初午大祭【群馬県】
日本一の木瓜で知られ、
源氏にゆかりが深い神社としても知られる
「冠稲荷神社」の「初午大祭」は、
旧暦の初午に近い3月、
群馬県指定天然記念物「冠稲荷のボケ」の
花の咲く頃に毎年開催されています。
ランドセルなどのお祓いをしてもらえる
「初午開運安全幸福祈祷」や
「義経公・義貞公 厄除稚児行列」
「細谷冠稲荷獅子舞」などが行われ、
桜の開花中は、ライトアップされた夜桜も
楽しめます。
- 群馬県太田市細谷町1
鹿児島神宮の
初午祭【鹿児島県】
海幸彦・山幸彦 伝承の地
「鹿児島神宮」の「初午祭」は
旧暦の1月18日に近い次の日曜日に
開催されます。
鈴かけ馬の踊りと踊り連の舞を
鹿児島神宮に奉納し、
牛馬を始めとした家畜の安全や多産、
五穀豊穣・厄除け・家内安全を祈願します。
歴史ある伝統行事として
国の無形民族文化財にも指定されています。
- 鹿児島県霧島市隼人町内2496-1
豊川稲荷東京別院の
「初午串札」【東京都】
白い狐に乗る仏法の守護神・
荼枳尼天(だきにてん)を祀る
豊川稲荷東京別院では、
「初午串札」を授与しています。
初午限定の御朱印も人気です。
- 東京都港区元赤坂1-4-7
王子稲荷神社・凧市【東京都】
「王子の狐火」で有名な「王子稲荷神社」では
毎年2月の午の日に江戸時代からの風物詩である
「凧市」(たこいち) が開催されます。
江戸時代、度々大火に見舞われたことから、
風を切って上る凧を火事除けのお守りにと、
民衆が王子稲荷神社の奴凧を
「火防の凧」(ひぶせのたこ)として
買い求めたのが始まりです。
凧市はこの「火防の凧」を求める多くの人で
賑わいます。
王子稲荷神社
- 東京都北区岸町1丁目12−26
三輪里稲荷神社の
「こんにゃくの護符」【東京都】
三輪里稲荷神社では、初午の日に
「こんにゃく御符」授与していることから、
別名「こんにゃく稲荷」と呼ばれ、
親しまれています。
この「こんにゃく護符」を煎じて服用すれば、
喉や風邪の病に神験あらたかとされることに
由来します。
「こんにゃく御符」は竹串ごと煎じて、
そのお湯を服用します。
- 東京都墨田区八広3丁目6−13