古来日本人は、風に微妙な違いを感じ取り、
それぞれ名前をつけてきました。
日本各地には、それぞれの土地独自の
風の名前も多く存在しているそうで、
その数は何と2000種類を超えているのだ
そうです。
そのうち、「冬の風」(ふゆのかぜ) の名前を
いくつかご紹介致します。
冬の風の特徴
冬は、大陸のシベリア地方に冷たく乾燥した
巨大な高気圧「シベリア高気圧」が発達し、
西側の大陸上に「高気圧」、
東側の海洋上に「低気圧」がある
冬型の気圧配置「西高東低の気圧配置」に
なりやすくなり、
ユーラシア大陸から太平洋に向かって
冷たく乾いた北西の季節風が
日本を吹き抜けます。
この大陸からの冷たい空気は、日本海を渡る時、比較的暖かい大量の水蒸気が供給されて、
本州の中央山脈に当たり、
日本海側に多くの雪を降らせます。
この雪を降らせた空気は再び乾燥し、
山を越えて東に吹き抜ける風は乾燥し、
太平洋側に乾燥した風を吹かせるため、
太平洋側は晴れて、乾燥した日が続きます。
冬の到来を告げる北風
凩・木枯らし(こがらし)
晩秋(10月半ば)から冬(11月の末頃)への
季節の変わり目に吹く、
冬の到来を告げる北風のことを
「凩・木枯らし」(こがらし) と言います。
低気圧と高気圧が交互に通過しながら
西高東低の冬型の気圧配置に変わる時、
初めて北の方から吹いてくる
最大風速8m/s以上の乾いた強い風は
「木枯らし1号」と呼ばれ、
冬の到来を告げる季節風の先陣です。
語源は「木を枯らす」とも「木嵐」とも言われ
この風が吹くと、
枝の木の葉は残らず飛び散り、
散り敷いた落葉も所定めず彷徨います。
小春風(こはるかぜ)
初冬の頃、「凩・木枯らし」をもたらした
冬型の西高東低の気圧配置は、
一時的に緩んだ時には、打って変わって
春を思わせるような「小春日和」になります。その頃に吹く風が「小春風」(こはるかぜ) です。
冬の風(ふゆのかぜ)
冬に吹く、北や北西から吹く
冷たい風を言います。
冬は「西高東低の気圧配置」となり、
北や北西からの冬の季節風が吹き、
日本海側に雪、太平洋側に乾燥を
もたらします。
北風(きたかぜ、ほくふう、きた)
冬、北から吹いてくる冷たい風のこと。
「シベリア高気圧」から
「アリューシャン低気圧」に向かって
冷たい強風が吹きます。
なお、「大北風」(おおぎた) は冬の強い北風、
「朝北風」(あさぎた) は朝に吹く北風のこと
です。
寒風(かんぷう、さむかぜ)
冬、北または北西から吹く
乾燥した強いの寒い風のこと。
肌を刺す寒さが感じられるような
寒い風のことです。
冬は風が吹く日が多く、
北風に限らず、寒さがひとしおである。
凍て風(いてかぜ)
冬に吹く、凍てつくような冷たい風のこと。
朔風(さくふう)
「一日」とか「新月」を意味する「朔」は、「はじめ」を意味することから、
方位の第1番目で「北」の方角という意味から
「朔風」とも言います。
陰風(いんぷう)
陰気な風、不気味な風を意味する「陰風」は、
冬の風のことも指します。
日本海側に豪雪をもたらす風
たま風
冬、東北・北陸地方の日本海の沿岸で吹く、
北及び北西からの強く激しい季節風のこと。
「たま」とは霊魂のことで、
悪霊が吹く風の意味です。
強く固まって吹いて来るので
「たば風」とも言われています。
「たま風六時間」とも言われ、
これはあまり長続きしない、
一時的な風というところから来ています。
太平洋岸に吹く乾いた風
空風・空つ風(からかぜ、からっかぜ)
冬の晴れ続きに吹きすさぶ
北西からの強い季節風のこと。
雨や雪のない、乾燥した冷たい強風のことです。
殊に群馬県の名物とされ、
「かかあ天下と空っ風」と言われています。
北颪(きたおろし)
冬に、山から吹き下ろしてくる、
北寄りの寒くて乾いた空風のことです。
日本海側からの冷たく湿った風は
日本海側の陸地に雪を降らせ、
中央山脈を越えて吹き下りてくる時には
乾燥した冷たい風となり、
乾燥した畑土や校庭などで砂塵を巻き上げ、
時にはつむじ風を起こします。
「颪」(おろし) は、
それぞれ山の名を冠して呼ばれることが多く
浅間颪 (あさまおろし) 、筑波颪 (つくばおろし) 、
赤城颪 (あかぎおろし) 、富士颪 (ふじおろし) 、
八ヶ岳颪 (やつがたけおろし)、伊吹颪 (いぶきおろし)、
比叡颪 (ひえいおろし) 、六甲颪 (ろっこうおろし)
などがあります。
ならい(北風)
冬、東日本の太平洋沿岸で
北から吹く寒冷な風のことです。
地形により風の向きが異なり、
東北では西寄りの風、
東京では北西の風となります。
「ならひ」という名前は、
山並みと並行して
同じ方向に吹いてくる風という意味で
「並ぶ」「倣う」から来ています。
山や地方の名を冠して
茨城県では北東風を「筑波ならい」、
北風を「北ならい」と言い、
伊豆七島では北東風を「下総ならい」、
北風を「本ならい」と呼んでいます。
べっとう
冬、東京湾から東海道にかけて吹く
北寄りの危険な突風のことで、
漁業に携わる人に恐れられています。
「べっとう風」「べっとう時化 (じけ) 」とも
言います。
乾風(あなぜ・あなじ・あなし)
冬、シベリア寒気団から西日本の地域に
流れ込む北西からの強い風のことです。
海は荒れ、遭難することもあったので
漁をする船人達に恐れられました。
「あな」は驚き・嘆声、
「せ」 「し」 「ち」は「風」の意味で、
「あなぜ」は恐るべき悪い風という意味です。
江戸時代の文書には、
穴から吹く出すような強い冷たい北西風という
意味で「穴西」と表記されています。
この強い季節風は長く続くこともあり、
瀬戸内海では「あなじの八日吹き」と
言いました。
平野風(ひらのかぜ)
冬、奈良県吉野郡東吉野村と三重県松阪市との
境界にある高見山の西麓に吹く
局地的な強風を言います。
関東地方でいう「颪」(おろし) に当たります。
初冬に吹く風
神渡し(かみわたし)
神無月に吹く西風のことを言います。
神無月(陰暦十月)には、
諸国の八百万の神々が出雲に集まるので、
神々が出雲へ旅立つ際に乗っていく風であると
言われています。
「神立風」(かみたつかぜ)、
「神送風」(かみおくりかぜ) とも言います。
神々が旅立つ前後の頃には、
大風や暴風がしばしば起こるが、
人々はこれを神の霊威と考えて
「神渡し」(かみわたし) と呼んで畏れたそうです。
江戸中期の方言辞書『物類称呼』には、
伊豆や鳥羽地方の船人の言葉として
「十月西風吹くを神渡しといふ」と
記載されています。
また、九州北部や四国の海岸地方では、
諸国の神々が戻って来るとされる
「神戻し」(かみもどし) の日は、
風の吹く日と言われています。
星の入東風(ほしのいりごち)
陰暦十月中旬頃(11月下旬から12月上旬頃)に
吹く北東の風のことです。
江戸中期の方言辞書『物類称呼』には、
中国地方や畿内、鳥羽や伊豆の船人の言葉
として記載されています。
この「星」とは「昴」(すばる) のことで、
夜空に「昴」がよく見える季節になると
天候が変わりやすくなるところから、
夜明けに「昴」が西に沈む頃に吹く風と
言われます。
日蓮御影講荒れ(にちれんみえこうあれ)
旧暦十月十三日は、日蓮上人の忌日法要。
この頃は強い風が吹くことが多いことから、
「日蓮御影講荒れ」(にちれんみえこうあれ)
と呼ぶ地方があります。
仲冬に吹く風
大師講吹雪(だいしこうふぶき)
関東・東北地方では、
旧暦十一月の四日、一四日、二四日の三度、
「大師講」という民間の祭が行われますが、
この「大師講」の頃(「冬至」の季節)に、
智者大師、元三大師、弘法大師 (空海)
または聖徳太子が訪れ、
必ず雪が降ると信じられ,
しばしば風雪に見舞われます。
各家々では、小豆粥や団子汁を作り、
「大師の杖」(だいしのつえ) という
長短不揃いの箸を添えて、大師様に供えます。
御誕生時化(おたんじょうしけ)
クリスマスの頃の荒れ模様の天気のこと。
「隠れキリシタンの里」
長崎県五島の漁師の間では、
ポカポカと穏やかな日が続いた後、
12月22、23日になると、
「御誕生時化」(おたんじょうしけ) と言って、
西風が吹き、荒れた天気になると言われました。
晩冬に吹く風
節東風(せちごち)
瀬戸内海の周防大島辺りの言葉で、
旧暦十二月頃、「節分」前に吹く東風で、
雨を伴うことの多い風です。
「立春」を過ぎると
「雲雀東風」(へばるごち) と呼び方が変わり、
「雲雀東風」(へばるごち) は晴天をもたらします。
八日吹き(ようかぶき)
陰暦12月8日の、吹雪(=雪を伴った強風)を
「八日吹き」(しわすようかぶき) とか、
「師走八日吹き」(しわすようかぶき) と言います。
陰暦の12月8日は
「事納め」や「針供養の日」であり、
日本海側の東北や山陰地方では、
この日は決まって吹雪くと言われていました。
京都府の北海岸地方では、
海が荒れて浜辺に打ち上げられた
河豚 (ふぐ) の一種の
「針千本(ハリセンボン)」を拾い、
魔除けとして家の出入り口の上に吊るす
風習があります。
なお、「針千本(ハリセンボン)」が
浜に打ち上げられるのは、
龍宮の乙姫の針を盗んだために
追放されたためだと語られてきました。
冬に吹く特徴的な風
隙間風(すきまかぜ)
扉や障子、壁などの隙間から吹き込んで来る、
冬の寒い風のことです。
「すきかぜ」とか「ひま洩る風」(ひまもるかぜ) と
も言います。
かつての日本家屋では、それを防ぐために
「目貼り」(めばり) をしました。
虎落笛(もがりぶえ)
冬の強い風が柵や竹垣に当たって
ヒューヒューと笛のような
音を立てることを言います。
「もがり(虎落、茂加離、模雁)」とは、
昔、戦の時に敵の侵入を防ぐために作られた、
竹を筋交いに組み合わせて縄で縛った
柵や垣根のことで、
中国で虎を防ぐために組んだ柵の
「虎落」の字を当てました。
鎌鼬(かまいたち)
冬季、突然皮膚が裂けて、
鋭利な鎌で切られたような傷が出来ること。
江戸初期の仮名草子にも、
エピソードとして載っていました。
関八州、秋田、信越などで起こるとされ、
昔は鼬 (いたち) に似た妖獣の仕業と信じたので、
「鎌鼬」(かまいたち) と呼ばれています。
近代になり気象現象の一つで、
旋風が起こった時、空気中に真空状態が生じて
皮膚が裂けるという真空説や塵旋風、電気説、
気圧の急変など諸説ありますが、
はっきりとした原因は分かっていません。