新緑(しんりょく)
「新緑」(しんりょく) とは、
初夏に見られるみずみずしい「若葉」の
鮮やかな緑の木々の風景を指す言葉です。
冬に葉を落とし、春に新しい芽を吹かせた
木々が、初夏に入って新しい葉をつけて
成長していく様子を表現しています。
「新緑」とは言わずに、
ただ「緑」という場合もありますが、
この場合は淡い色の「若葉」が
もう少し濃くなった頃合いの感じになります。
また「緑さす」(みどりさす) は、
初夏の「若葉」が青々と茂って、
「新緑」の鮮やかさや、
その緑が周囲に影響を及ぼしている状態を
指した言葉です。
「万緑」(ばんりょく) というと、
見渡す限りどこもかしこも緑で覆われている
感じを表しています。
初夏から晩夏まで通して使われる季語ですが、
言葉の響きの強さから、「新緑」よりも
草木の生命力が旺盛な様態や
生命感の溢れる風景を表現ししています。
なお、初夏の樹木の様子を示す季語には
「若葉」や「新樹」がありますが、
「新緑」が青々とした木々の風景を
指すのに対して、「若葉」は新葉を、
「新樹」は若葉に覆われた樹木を指す
季語として使用されています。
若葉(わかば)
「新緑」が初夏の林や森全体が浅い緑に
包まれた様子を表現する言葉なのに対し、
「若葉」は初夏の「葉」だけに焦点を合わせた
言葉です。
「新緑」が明治の漢文脈の中で登場してきた
新しい季語であるのに対し、
「若葉」は江戸初期から使われてきました。
初夏になり、
常緑樹の濃い緑の枝先には
黄緑の若葉が萌え出し、
冬中すっかり葉を落していた落葉樹も
一斉に新緑の葉を茂らせ、
山全体がまるで新しい着物を纏ったように
なります。
初夏の野山が新鮮で美しいのは全て、
「若葉」のお蔭です。
一口に「若葉」と言っても、樹々により、
その緑の色合いや立ち姿が異なるので、
「楓若葉」「樫若葉」「樟若葉」など、
木の名前によって区別しても用いられて
います。
野原の草の芽が伸びて若葉になる
春の季語の「草若葉」(くさわかば) よりやや遅れて
木々が若葉になる様は
まさに典型的な初夏の風景で、
これを眺めているだけで
元気になるような気分になりますね。
場所によっても、
山全体が新緑に包まれた様子を「山若葉」、
谷を埋めるのが「谷若葉」、
里にあるみずみずしい新葉を「里若葉」、
寺にある「寺若葉」、庭にある「庭若葉」、
若葉の季節は「若葉時」、
若葉の頃の風は「若葉風」、寒さを「若葉寒」、
晴天は「若葉晴」で曇天は「若葉曇」、
若葉の色を一層際立たせる雨を「若葉雨」
などというように、場所や時候、天文と
結びつけて用いられてもいます。
なお似たような季語に「青葉」がありますが、
「青葉」は「若葉」よりは少し季節が進んで、葉の緑が濃くなった頃の「新緑」を言います。
そして「新緑」や「若葉」には
初々しさや淡い色あいを感じますが、
「青葉」には青々と漲る生気が感じられ、
夏に向かって厚みを増す「青葉」には、
緑濃く繁りゆく躍動感を感じます。
常盤木の若葉
(ときわぎのわかば)
常緑樹の新葉の総称。
常緑樹は一年を通して緑色の葉を保ちますが、
初夏になり新しい葉が萌え出ると、
古い葉を落とします。
椎若葉
(しいわかば)
椎とは、関東以西に自生する
高さ30mにも達するブナ科の常緑高木の
総称です。
新緑が盛り上がるような大木の椎は、
初夏の明るさを際立たせてくれます。
なお淡緑色の若葉が茂ると、
黒ずんだ古い葉は落葉します。
樫若葉
(かしわかば)
樫は木質が固いことから、
「かたし→かし」と呼ばれるようになった
ブナ科コナラ属の常緑高木の総称です。
初夏の光を受けて、艶々とした若葉は
生命力を感じさせてくれます。
樟若葉
(くすわかば)
関東以西の各地に見られる
高さ40mにもなるクスノキ科の常緑高木で、
樟脳の原料樹としても有名です。
枝が大きく張り、葉も良く茂り、
病虫害に強く長命なので、
神社などに多く植えられていることから、
神木、天然記念物となっているものが
多いです。
樟の若葉は頂からムクムクと湧くように生じ、
表が赤褐色、裏が深い緑色をしていて、
その色合いが美しいとされています。
若楓
(わかかえで)
紅葉した楓の美しさは格別ですが、
萌え始めた若芽や、
初夏の光を通す薄緑色の若葉も
また別の美しさがあります。
『徒然草』一三九段に
「卯月ばかりの若楓、
すべてよろづの花紅葉にもまさりて、
めでたきものなり」
とその美しさを讃えています。
新樹(しんじゅ)
若々しい薄緑で全体を覆われた初夏の木々を
「新樹」と言います。
「新緑」は風景、新樹は樹木を指します。
みずみずしい新樹に包まれた山や野には
生命力が漲っています。
大きく深呼吸すると、なんだか、
力が湧いてくるような気がしてきます。
鎌倉時代後期に成立した私撰和歌集である
『夫木抄』(ふぼくしょう) に見えますが、
俳句では大正期以降多用されるように
なった季語です。