春の季語に「亀鳴く」というのがあります。
どの歳時記を見ても、
鎌倉後期の延慶3(1310)年頃に成立した
類題和歌集『夫木和歌抄』に収められた
藤原為家の和歌がもとになって
生れた季語だとしています。
川越の をちの田中の 夕闇に
何ぞと聞けば 亀のなくなり
何ぞと聞けば 亀のなくなり
[意訳]
川向こうの、あの田んぼの中で
何かの鳴き声が聞こえる。
あれは何かと尋ねたら
亀が鳴いているのだ。
川向こうの、あの田んぼの中で
何かの鳴き声が聞こえる。
あれは何かと尋ねたら
亀が鳴いているのだ。

実際には、亀が鳴くことはありません!
声帯など声を出す器官を持っていないので、
「鳴きたくても鳴けない」のです。
ですが、古来より亀は、春の恋の季節になると
オス亀がメス亀を鳴き声で呼ぶと言われて
きました。

また「亀の看経」(かめのかんきん) という
春の季語もあって、
これは、春になると、
亀が何かをブツブツと言っているように
見えるのが、
小さな声でお経を読んでいるように
聞こえるという意味です。

「亀鳴く」は、3月から4月頃に当たります。
この頃になると、草が萌え、水は温み、
私達人間も、「春眠暁を覚えず」で、
なんだかのんびりした気分になります。

そんなウトウトしていた時に、
何やら聞こえてきて見回してみると、
春になって池から這い出した亀が
石の上などに日向ぼっこしているのを見て
「亀が鳴いたのかな?」なんて
思ったのかもしれませんね。
藤原為家 ふじわらのためいえ (1198-1275)
定家を父に持つ、
鎌倉時代中期の公卿・歌人。
歌道師範の家を継承して歌壇に君臨。
『続後撰和歌集』『続古今和歌集』の
撰者。