うまずたゆまず

コツコツと

若菜摘み

日本には古来より、
年の初めに雪の間から芽を出した若菜を摘み、
自然界から新しい生命力をいただく
「若菜摘み」という風習がありました。
 

 
明日よりは 春菜採まむと 標めしのに
      昨日も今日も 雪はふりつつ
山部赤人 
 
 
「若菜摘み」の様子は
『古今和歌集』にも有名な一首があります。
きみがため 春の野にいでて 若菜つむ
     わが衣手に 雪はふりつつ
あなたに差し上げようと思って春の野に出て若菜を摘んでいると私の袖にはしきりに雪が降りかかってきます。
 
この和歌からも伺えるように、「若菜摘み」が
労力と手間を要するものであったと同時に、
非常に特別な行事であったことが伺えます。
 

 
そうして摘んだ若菜は、
6日の晩から(あるいは7日の朝に)
「七草叩き」「七草ばやし」などと言って、
年神棚(としがみだな)の前や
大黒柱の前に用意したまな板の上で
音をたてて刻みました。
 
「刻む」は忌み言葉と言われることがあるため、
「叩く」と表現したようです。
 

 
七草を刻む動作に合わせて、大きな声で
「唱え言葉」を口にするのが通常で、
日本各地には様々な唱え言葉が伝わっています。
 
七草なずな 唐土の鳥が
日本の土地に 渡らぬさきに ととんのとん
(東京都)
 
七草 唐土の鳥と 日本の鳥とあわせてばたばた
(愛知県)
 
せんたらたたき、たらたたき
唐土の鳥と 田舎の鳥と 渡らぬさきに
せんたらたたき、たらたたき
(山形県・「せん」はセリの訛り)
 
どんどの虎と 田舎の虎と 渡らぬさきに 
何草はたく、七草はたく
(岩手県・「虎」は鳥の訛り)
 
なんなん七草 とうどの鳥が
わたらすさきに すっとことんの とんとん
(兵庫県)
 
なずな七草 とうどの鳥も
すちゃちゃんちゃんなくがよい
日本の鳥は にほんざし
(長野県)
 
七草なずな、
唐土の鳥が日本の土地に渡らぬうちに
はし叩け、はし叩け
(富山県)
 
まな板を打ち鳴らしながら歌うのは、
農作物の天敵である
鳥を追い払うためとする説や
人日の夜にやってくる
「鬼車鳥」(きしゃどり)と呼ばれる妖鳥を
追い払うためとする説があります。

また「若菜摘み」とは関係なく、平安時代に、
Chinaから「七種菜羹」(ななしゅさいのかん)という
7種類の菜が入った吸い物が伝わりました。
これは、年中行事である
「人日」(人を殺さない日)に作られた
7種類の穀物で使った塩味の利いたもので、
この影響を受けて、「七種粥」が食べられる
ようになったそうです。
 

 
その時の「七種」は諸説ありますが、
(こめ)・粟(あわ)・黍(きび)・稗(ひえ)
蓑米(みのごめ)・胡麻(ごま)・小豆(あずき)だった
ようです。
 

 
その後、この「七種粥」が
「若菜摘み」と結びついて、
7種類の若菜を入れた
七草粥」になったと考えられます。
 
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 江戸時代には、幕府が公式行事として
人日」を祝日にしたことで、
七草粥」を食べる風習が
一般の人々にも定着していったようです。