
精霊馬(しょうれいうま)
「精霊馬」(しょうりょううま) とは、
お盆の時期に、御先祖様の霊が
自宅とあの世を往来する際に使う
胡瓜や茄子で作った乗り物の事です。
お盆の期間中、仏壇の前に設置する祭壇
「精霊棚(盆棚)」にお供えしたり、
門や玄関に飾る地域もあるようです。
胡瓜馬と茄子牛の意味
胡瓜は「馬」、茄子は「牛」を表しています。
地域によっては、
胡瓜を「精霊馬」(しょうりょううま) 、
茄子を「精霊牛」(しょうりょううし) と呼び、
まとめて「牛馬」(うしうま) と呼ぶことも
あります
御先祖の霊が現世に帰ってくる時は
速く走る胡瓜の「馬」に乗り、
帰りはゆっくりあの世へ戻って欲しいため
茄子の「牛」に乗るという意味があると
されています。
ただ地域によってはその逆もあって、
戻って来る時は
ゆっくり丁寧にお迎えしたいので
茄子の「牛」に乗ってもらって、
帰りは早くあの世に戻って休んで頂きたいので
速い胡瓜の「馬」に乗ってもらう
としている所もあるようです。
更には、御先祖様の霊には、
行きも帰りも胡瓜の「馬」に乗ってもらって、
茄子の「牛」は供養するためのお供え物などの
荷物を載せて帰るとする地域もあるようです。
なぜ「胡瓜」と「茄子」を使う?
由来
「胡瓜」と「茄子」が
使われるようになったのは諸説ありますが、
季節がら夏野菜が入手しやすいことが
由来のようです。
平安時代には、貴族の間で
瓢 (ひさご) や麦藁を用いて作られていました。
江戸時代に一般庶民にもその風習が広まり、
入手しやすい「胡瓜」や「茄子」が
使われるようになったとされます。
但し「胡瓜」や「茄子」を使うのは
江戸を中心に広まった習慣であり、
関東以外の地域では別の野菜も使われます。
例えば沖縄では、
先祖の霊があの世へ戻る時に使う杖として、
「サトウキビ」を供える習慣があります。
「胡瓜馬」と「茄子牛」で一儲け
河村瑞賢
江戸を中心に広まった
「胡瓜馬」と「茄子牛」ですが、
これで一儲けした人物がいたようです。
江戸時代初期の豪商・河村瑞賢 (かわむらずいけん)
です。
瑞賢は、伊勢の貧農から身を起こし、
「明暦の大火」をきっかけに材木商として
財をなした後は、多くの公共事業に携わり、
東廻り・西廻り航路の整備、大規模な治水事業、
銀山開発などの事業に取り組んだ人物です。
彼の人生を変えたのが、
実は「胡瓜馬」と「茄子牛」でした。
瑞賢は13歳で伊勢国から江戸に出て、
荷物を運ぶ車力 (しゃりき) などをしていましたが
上手くいかず諦めて上方へ行く途中、
小田原宿で老僧に嗜められ再び江戸に戻る途中、
品川付近の海岸に、お盆の「精霊送り」で
瓜や茄子が多数漂流しているのを発見。
瑞賢はこれらを拾い集めて塩漬けにして、
江戸の各所の工事現場で働く作業員を相手に
売り歩くと大人気になったことから、
漬物屋を始めます。
その後、その販売先の建設現場で、
作業監督の役人と知り合ったのをきっかけに、
土木作業員の頭として働くようになり、
更には自らも土木工事を請け負うようになり、
遂には材木商として成功することになったの
です。
この漬物が「福神漬の元祖」とも
言われています。
偶然にも品川の海岸で、
誰にも拾われない瓜や茄子を、瑞賢は、
これは福の神の仕業によるものと考え、
「福神漬」と名付けたという俗伝があります。
瑞賢の豪商への道の第一歩が、
お盆の供え物を再利用した漬物とは、
バチ当たりなような気もしますが、
「ヒントはどこに隠されているか分からない」というお話なのか?
「肉体労働」にはミネラルが不可欠という
教訓なのか?
この頃になると、江戸の庶民も白めしを
食べるようになってきたのか?
面白い話でした。
「精霊馬」を飾る
「精霊馬」を飾る期間と飾り方について
詳しく説明します。
お供え期間
一般的に「精霊馬」をお供えする期間は、
「盆入り」から「盆明け」にかけての
お盆の期間に飾ります。
「お盆飾り」は余裕をもって数日前から
少しずつを始めることをおススメしますが、
「精霊馬」は御先祖様を迎える際
出来るだけ新鮮な状態が望ましいため、
前日あたりで用意するとよいでしょう。
馬と牛の置き方は?
一般的には「精霊棚 (盆棚)」に飾りますが、
精霊棚を使わずにお盆に載せて、
門や玄関に飾る地域もあるようです。
精霊棚に置く場合
大体次の3つのパターンがあるようです。
1.胡瓜と茄子を向かい合わせる
「迎え盆」では、胡瓜と茄子を
向かい合わせにして仏壇の方に向けます。
「送り盆」ではどちらも仏壇を背中にして
外向きに置く飾り方です。
2.胡瓜は仏壇へ、茄子は外へ向ける
胡瓜は仏壇の方、
茄子は家の外や玄関の方に向け、
「迎え盆」でも「送り盆」でも
向きを変えずに置き続ける飾り方です。
3.胡瓜を西に、茄子を東へ向ける
御先祖様は東から戻ってくるという考えから、
胡瓜は西、茄子は東に向けて置き続ける
飾り方です。
なお、家の慣習や地域によって
異なることがありますので、
気になる場合は親戚や地域に詳しい方へ
確認するとよいでしょう。
門先や玄関先に置く場合
地域によっては「迎え火」と「送り火」を
家の前で行うタイミングで、
門や玄関先に置いていることがあります。
「迎え火」では、門先や玄関先で
胡瓜と茄子を家の方へ向けて置いて、
「迎え火」を終えたら
「精霊棚 (盆棚)」に移動させます。
一方「送り火」の時は、「迎え火」と同様、
「精霊馬」を門先や玄関の前へ持って行き、
どちらも外側へ向けて置きます。
なお「精霊馬」を外に出したままにしておくと
鳥などの動物に食べられたり、
傷んで腐ったりするため注意しましょう。
こちらも地域や宗派によって習慣が違うため、
確認しておくと良いでしょう。
「精霊馬」は
飾る地域と飾らない地域がある
「精霊馬」を飾るのは基本的に東日本のみで、
西日本の地域では飾らない地域が多いです。
西日本では、明かりを灯した「精霊舟」を
川に流す「精霊流し」をする習慣があります。
「精霊馬」を飾る地域であっても、
北海道から東北、中部地方までは
「送り盆」にしか「精霊馬」を飾らない
地域が多いです。
これはお土産を持って、あの世に帰ってもらう
ということからだそうです。
なお、「送り盆」にしか置かない地域の場合は
お供え物とともにその日のうちに
「精霊馬」を処分します。
また「浄土真宗」では
先祖が返ってくるという考えがないため、
お盆の飾り物をする習慣はありません。
「精霊馬」の作り方
1.材料を用意
2.割り箸を脚の長さに切る
馬と牛の脚の長さに
割り箸(苧殻)に印をつけたら切ります
(4本×2=8本)。
馬の脚は長めに、牛の脚は短めにすると
それぞれの動物らしい仕上がりになります。
3.胡瓜と茄子に脚を挿す
胡瓜と茄子のヘタの部分を頭に見立てて、
切った割り箸を挿します。
4つ足を開き気味にすると安定して立ちます。
「精霊馬」を処分する際の
注意点と処分方法
お役目を果たした「精霊馬」の処分方法に
迷う人もいるかもしれません。
一般的に「お供え物」は、
御先祖様へ捧げた後に家族で分けて食べて
供養することが多いのですが、
「精霊馬」に使われる野菜は
食べない方が良いとされています。
それは、運んできた役目に感謝して
処分する風習があること、
また暑い期間中にお供えするため、
傷んで腐っていることなどが挙げられます。
古くからの風習では、川に流したり、
お盆飾りと一緒に燃やしたりして
「精霊馬」を送り出し (処分し) ていましたが、
現代では、川や海へ流したり、燃やすことは
地域の規則に違反してしまう可能性も
あります。
このことを踏まえて、
現代でも可能な処分の方法を紹介します。
処分方法①
塩で清めて白い紙で包み可燃ごみに出す
塩で清めて白い紙で包み可燃ごみに出す
最も一般的なのは、「精霊馬」を塩で清めた後に
「半紙」で包み、「可燃ごみ」として処理をする
方法です。
塩で清めることで「精霊馬」の役割を解き、
元の野菜としての状態へ戻すことが出来ます。
白い紙は「半紙」でなくても、
コピー用紙やキッチンペーパーでも
問題ありません。
食べ物を粗末にするのが気になる場合は、
生ごみ処理機で肥料にしてもいいでしょう。
処分方法② 土に埋める
割り箸は「可燃ごみ」で出し、
自宅に庭があれば、
胡瓜と茄子は埋めて自然に還す方法もあります。
土に埋める際の注意点としては、
必ず自身の私有地で行うことです。
他の私有地や公園などの公共の場に埋めることは
ほとんどの場合禁止されておりますので、
埋める場所には気を付けましょう。
処分方法①
お寺で処分してもらう
お寺で処分してもらう
お寺によってはお盆に使ったお供え物を
「お焚き上げ」しているところもあります。
お盆の前に、菩提寺や近くのお寺に
処分が可能か確認してみて下さい。
お盆で他に使ったお供え物と一緒に
燃やしていただくとよいでしょう。