
人類は5千年前の太古より近代まで、
洋の東西を問わず、歯磨きをしてきました。
人類の歯磨きの歴史
黄金の爪楊枝
紀元前3000年頃のメソポタミア文明の
シュメール人の遺跡から、
「黄金の楊枝」が発見されており、
これが現存する最古の爪楊枝とみられています。
古代エジプトの王族の墓の埋葬品の中からも
装飾が施された細い金の棒が出土しており、
爪楊枝や耳かきとして使われていたと
考えられています。
チュースティック
古代エジプトでは、「チュースティック」という
柳などの繊維が柔らかい木や
芳香のある木の小枝の片方の端を噛んで解し、
歯面の汚れを物理的に取り除いていたようです。死後もキレイな歯で過ごせるようにと、
副葬品としてミイラと一緒に墓に納められて
いたことも確認されています。
2600年前の古代インドで、
外科手術の父・スシュルタが書いた医学書
『スシュルタ本典(SusrSamhita)』には
「蜜やある種の粉本で作った糊粉を
歯木につけ、
歯肉を傷をつけない様に歯を磨けば、
不快な口臭や歯の汚れを落とす」とあり、
そして歯ブラシ(歯木)には
「虫食いのない木の枝(ニーム)」を
使うようにススメています。
常緑樹「ニーム」の苦い樹液には
殺菌作用や消炎作用があり、
今でも「歯木」(しぼく) の素材として使われています。
紀元前19世紀から紀元前16世紀頃の
古代バビロニアでは、
指先に麻製の布地を巻き付け、
歯の表面を擦ってキレイに磨いていたようです。
「歯磨き剤」の登場
紀元前1700年頃のエジプトの医学書
『パピルス・エーベルス(Papyrus of Ebers)』には
歯の疾患や治療法とともに、
人類史上初とされる「歯磨き剤」のレシピが
記録されています。
それはビンロウジュの実を細かく粉状にし、
燧石を細かくしたものを研磨剤として、
蜂蜜や乳香、緑錆を練り上げて
ペースト状にしたものでした。
また紀元前500年頃の古代ギリシャの医聖・
ヒポクラテスは、口臭や歯肉炎を防ぐために
歯磨きを推奨しました。
その方法は、精製していない羊毛を使って、
歯磨き剤で摩擦した後、
水ですすぐというものです。
釈迦が広めた
「歯木」を使った歯磨き習慣
5つの利益
同じく紀元前5世紀頃、古代インドでは
釈迦が弟子に口腔ケアを促していました。
釈迦の説法をまとめた
『律蔵』という仏典には、
「弟子である僧達は歯木を噛まず、
口が臭かったので、
世尊(釈迦)は、
「歯木」を噛むことの5つの利益を説いた」
と記されています。
「歯木」とは
ところで「歯木」(しぼく) とは、
細い棒の先端を噛んで繊維を房状にし、
歯と舌を掃除する歯ブラシの原形のような
ものです。
サンスクリット語(梵語)では
「ダンタ・カシュタ (danta-kasthta)」です。
「ダンタ」は「歯」、
「カーシュタ」は「木」を意味します。
「歯木」は長くても短くてもいけません。
ある僧が長い「歯木」で
少年僧を打っているのを見た釈迦は、
「歯木」の長さは指八本分までと決めました。
またある僧が短い「歯木」を誤って飲み込んで
喉を突いたことから、
短くても指四本分以上の長さにするようにと
指示したのです。
そして「歯木」を噛むのは早朝で、
「歯木」を使う前には手をキレイに洗うこと、
使い終わった「歯木」は洗ってから捨てること
も大切でした。
「歯木」から「楊枝」に
「歯木」がインドからChinaに伝わると
「楊枝」と漢訳されるようになりました。
というのは、Chinaにはインドで
「歯木」に使われている「ニーム」がなく、
その一方で古来より霊力が宿るとされてきた
「楊(=柳)」が豊富にあるからです。
Chinaでは自然と「楊(=柳)」を
「歯木」として利用するようになりました。
隋や唐の記録には
「歯痛を鎮めるために
柳の皮を噛んでその汁を歯になすりつける」
とあります。
ところで、「楊枝」というと、
先が尖った爪楊枝が思い浮かびますが、
元々は両端を切り揃えた小枝、
もしくは片方の先端を分けて裂いたもの
でした。
仏教伝来と共に日本へ
日本でも、縄文時代や弥生時代の遺跡から、
木の枝を加工して爪楊枝のようなもので
歯を磨いていたと思われる痕跡が
見つかっています。
「お歯黒」をした埴輪が出土していることから、
「お歯黒」の習慣も始まっていたようです。
「歯木」(しぼく) を使った歯磨きの習慣は
仏教伝来と共に伝わり、
当初は宗教儀式の一環として
僧侶や貴族など限られた人々だけにより
行われていましたが、
江戸時代になると庶民の間でも
習慣化していきました。
以後、我が国では明治時代初期に至るまで
基本的には「房楊枝」による歯の清掃が
行われました。
イスラム教では「ミスワーク」
また「イスラム教」でも、
イスラム教徒の行動を定めた
「ハディース」によれば、
預言者ムハンマドは、
1日5回の礼拝(サラート)の前に、
「ミスワーク」で口内を清めることを
推奨しています。
「ミスワーク」とは、砂漠地帯に自生する
「アラック」という木の枝や根で作られる
「歯木」のようなもので、天然のフッ化物・
シリカ・タンニンなどが含まれ、
歯垢の除去や口臭予防、ホワイトニング効果があると言われています。
木の繊維を噛んで解してブラシ状にして
使います。
イスラム教では
「清潔は信仰の一部」とされており、
口腔衛生を保つための
重要な宗教的・日常的習慣として
今も世界中で広く使われています。
歯ブラシの歴史
世界初の歯ブラシ
世界初の歯ブラシは、15世紀の明で考案された
皇帝への献上品として作られたものです。
動物の骨や竹の柄を台にして、
豚固いの毛を植え込んだものとされています。
ヨーロッパで改良
この歯ブラシが、
シルクロードを経てヨーロッパへ伝わり、
少しずつ改良されていきました。
17世紀頃のフランスでは、獣骨の柄で
毛先の素材が豚から馬毛が植えられたものが
使われるようになりました。
イギリスでは1780年、獣骨に穴を空けた柄に
猪の毛を針金で留めた歯ブラシが作られ、
各国に普及していったとみられます。
日本初の歯ブラシ
現在のような歯ブラシは、
明治時代初期にイギリス製のものを参考に
鯨のヒゲと馬の毛で作られたのが最初と
言われています。
ナイロン製歯ブラシの登場
現在のようなナイロン製の歯ブラシは、
1938年に米デュポン社が世界で初めて
ナイロン製の毛を発明・実用化してからです。
1950年代以降は、
このナイロン製の毛先と、
プラスチック製のハンドルを組み合わせた
歯ブラシが主流になり、今日に至っています。
電動歯ブラシ
電動歯ブラシは、1960年頃、
障害者、お年寄り、病人向けに
ヨーロッパで開発されました。
その後、世界中で徐々に普及していき、
今では音波式、超音波式など高機能化も進み、
歯間の汚れを落とす機能など多機能化も
進んでいます。
ですが、歯を守るために大切なのは、
やはり地道な日々のケア。
テクノロジーの力も借りながら、
まずは自分で気をつけることが大事です。