盆明けの16日の夕方に火を焚いて祖先の霊を送り出す・・・、
これが「送り火」です。
「送り火」とは
お盆に帰ってきて、お盆を一緒に過ごしたご先祖様の精霊を
無事にあの世に戻れるように願いを込めて、送り火を焚いて
再びあの世に送り出すための行事です。
迎え火を焚いた同じ場所で、
焙烙(ほうろく)という素焼きのお皿の上で
苧殻(おがら)を積み重ねて送り火を焚きます。
「盆送り」とか、「送り盆」などとも呼ばれます。
但し最近では、実際に火を焚くことが難しいケースも増えてきました。
そんな時は「盆提灯」が迎え火・送り火の代わりに
ご先祖様を導く灯りとなります。
送り火の準備とやり方
送り火のやり方は、地域や宗派によって異なりますので、
あくまでも参考として下さい。
用意するのは「苧殻」(おがら)と「焙烙」(ほうろく)です。
「苧殻」は、皮を剥いだ麻の茎ですが、
用意が難しい場合は、割り箸などで代用することも出来ます。
「焙烙」は 「苧殻」を乗せて焚くための素焼きの受け皿です。
こちらも耐熱性の平皿などで代用が可能です。
送り火は、玄関や庭など危険が少ない場所を選び、
近くに水を用意し、風向きにも十分に注意しながら行って下さい。
「焙烙」の上に小さく切った「苧殻」を乗せてたら火をつけ、
手を合わせてご先祖様に祈ります。
燃え尽きたら、しっかり消火を確認しましょう。
夏の風物詩の「大文字焼」
「大」の字を松明の炎で描く行事で、
お盆の送り火として全国各地で行われています。
なぜ「大」の字なのかについては、
はっきりとしたことは分かっていません。
諸説としては、
- 元々「大」という字は、星をかたどったものであり、
仏教でいう悪魔退治の「五芳星」の意味があったのではないか。 - 一年を通して位置の変わらぬ北極星(北辰)は神の化身と見なされており、その北極星をかたどった「大」の字を、同じく動かぬ山に灯したのが、そもそもの大文字送り火の起源ではないか。
- 弘法大師は、「大」の字型に護摩壇を組んでいたところから、「大」の字にしたのではないか
などがあります。
全国の代表的な送り火「大文字焼」の行事を紹介します。
京都五山送り火
京都の夏を代表する伝統行事の一つで、
お盆の精霊を送るために例年8月16日に行われます。
まず東山に「大」の字が浮かび上がり(午後8時)、
続いて、
松ケ崎に「妙」・「法」(午後8時05分)、
西賀茂に「船形」(午後8時10分)、
大北山に「左大文字」(午後8時15分)、
嵯峨に「鳥居形」(午後8時20分)が順番に点灯され、
点火時間はそれぞれ約30分間です。
これら5つの送り火は全て
「京都市登録無形民俗文化財」に登録されています。
「五山の送り火」の始まりについては、
余り明らかになってませんが、
戦国時代に盛んに行われた「万灯会」(まんとうえ)が
次第に山腹に点火され、
盂蘭盆会(うらぼんえ)の大規模な精霊送りの火となったのが
起源と言われています。
「万灯会」とは、懺悔滅罪(さんげめつざい)のため、
多く(一万)の灯明を点して、仏菩薩に供養する法会のことです 。
奈良大文字送り火
戦没者慰霊を目的として、昭和35(1960)年に始まりました。
現在は災害などで亡くなった方々も含めて慰霊を行うとともに、
世界平和を祈る行事として、
毎年、終戦記念日の8月15日に催されています。
18時50分より春日大社境内の飛火野で慰霊祭が行われ、
大文字は若草山の南側にある高円山の中腹にて20時に点火されます。
(火床108カ所→56カ所、点火時刻非公表)
平城宮跡や奈良公園など、
奈良市内の様々な場所から見ることが出来ます。
箱根 強羅大文字焼
大正10(1921)年より始まった、
「箱根三大祭り」の一つにも数えられる「強羅大文字焼」は、
先祖供養の送り火として、例年8月16日の夜に行われています。
強羅温泉の正面に位置する明星ヶ岳の頂上付近で
19時30分より、
松明200~300本を使用して作られる大文字が
徐々に点火されていきます。
「精霊流し」と「灯籠流し」
船にしつらえた灯籠を川や海へ流し、
この灯籠と一緒に盆に迎えたご先祖様の霊を送り出すことを
「精霊流し」(しょうりょうながし)とか
「灯籠流し」(とうろうながし)と言います。
その際、盆の間に供えた野菜や果物などのお供え物も流します。
これはご祖先様の元へ供物を贈るという面と、
死の世界と関わった穢れを
水によって清めるという面を持ったものでしょう。
ただ最近では、河川を汚染する問題があることから、
川や海に流すことを禁止しているところが多くなっているので、
菩提寺に持参して供養してもらうか、
自宅で始末するようになりました。
灯篭流し(とうろうながし)
死者の魂を弔って灯籠やお盆の供え物を海や川に流す
日本全国で行われている行事の総称です。
精霊流し(しょうろうながし)
長崎県を中心に佐賀県、熊本県の一部で行われている
「送り火」の一種で、
初盆を迎えた故人の家族が
「精霊船」と呼ばれる船を作り、担いで川まで運びます。
「灯籠」ではなく、
「船」を流すところが、灯籠流しとの違いです。
「精霊船」と呼ばれる船を引いて
「流し場」と呼ばれる場所に運ぶ行事です。
船は1m程のものから数十mのものまであります。
立派な船を作る方がいいとされているようです。
「精霊船」には、長崎特有の飾りつけがあります。
精霊船の舳先(へさき)は真っ赤なしずく型になっていて
「みよし」と呼ばれています。
「みよし」の中には、ろうそくや電球を灯し、
家紋や名前を書いた紙を貼り、
夜でも見分けられるようになっています。
「精霊船」の前を、
火消しの纏のような「印灯籠」(しるしとうろう)を突き上げて、
次に「鉦」(しょう)をチャーンチャーンと打ち鳴らしながら
歩きます。
その後に、揃いの法被姿の縁者が精霊船を引き、
正装した遺族が続きます。
この時に鉦の音に合わせて
「ちゃんこんちゃんこん(鎮魂の意)どーいどい」と
掛け声を掛け合いながら、
焚き上げの場所まで町を引き回して練り歩きます。
「ドーイドーイ」とは「南無阿弥陀仏」が訛ったものだそうです。
船を曳いている時は、爆竹が辻々で打ち鳴らされます。
これは、大きな音で悪魔を追い払うためだと言われます。
ただ近年は「派手に鳴らしてやろう」という意味合いが強くなり、
その危険行為が問題視されているそうです。
精霊流しが行われる周辺のコンビニでは耳栓が売られているようです。
長崎市や諫早市では、
お盆の墓参りではそれぞれの家の墓前で花火をする風習もあります。
この花火もまた「送り火」のバリエーションの形です。
花火大会
夏に全国各地で行われる花火大会も、
元々「送り火」の行事から始まったとされるものも
少なくありません。