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天高く馬肥える秋

昔から「天高く馬肥える秋」と言われるように、
秋は空が青く、高い日が多くなります。
「天高く馬肥ゆる秋」は時候の挨拶として、
「寒露」の時期に、手紙などを出す際に、
使われています。
 
 

「天高く馬肥ゆる秋」とは

「天高く」とは、空気が澄み渡り
高く感じられる秋の空のことです。
「天高く馬肥える秋」とは、
秋は気候が良いので、
馬も食欲が増して肥える
収穫の季節という意味で、
秋の素晴らしさを表現したものです。
 
 

「秋高く塞馬肥ゆ」

「天高く馬肥ゆる秋」は、元々は、
唐の漢詩「秋高く塞馬肥ゆ」に由来する表現です。
原典の「秋高く塞馬肥ゆ」は、
唐時代の詩人・杜甫(とほ)の祖父で、
「五言律詩」の確立に功績を残した
杜審言(としんげん)が、
北方遊牧民族の征討に出かけた
友人の蘇味道(そみどう)の凱旋を願って詠った
『贈蘇味道(蘇味道に贈る)』から来ています。
 
  雲浄(きよ)くして妖星(ようせい)は落ち、
  秋高くしては塞馬肥ゆ
 
・妖星(ようせい):彗星もしくは大きな流星。
          凶兆とされていた。
・塞馬(さいば) :北方の馬、匈奴の馬。
 
これは、元々は、前漢の将軍であった
趙充国(ちょうじゅうこく)が言ったとされる、
「匈奴(きょうど)の侵略に備えよ」という警句を
杜審言が詩としたものだそうです。
 
前漢時代、北方では騎馬民族の匈奴(きょうど)
大きな勢力を誇っていました。
その匈奴は、収穫の秋になると
春から夏にかけて草を食べて
逞しく育った馬に乗って大挙して
収穫物を略奪しにやって来ることから
常に頭痛の種となっていました。
 
そのため趙将軍は、
「秋になると、匈奴が強く育った馬に乗って
 攻めてくるから気をつけろ」と
警戒の言葉として発言したのです。
 
匈奴が滅亡すると、「秋高くして塞馬肥ゆ」は
「秋高く馬肥ゆ」となり、
更に日本に入って来ると
「天高く馬肥ゆ」に変化して、
広く使われるようになりました。
 

秋の空はあんなに高く澄んでいるの?

「天高く、馬肥ゆる秋」と表現されるように、
「秋の空」と言えば、高く澄んで爽やかな
イメージがあります。
 
秋空が高く見えるのは、
  1. 実際に空が高くなるため
  2. 雲が高く浮かぶため
  3. 空気の透明度が高いため
これらが組み合わさることで、
空の高さが強調されるように感じます。
 
実際に空が高くなる
夏の代表的な雲である
もくもくと湧き上がる「入道雲」
(正式名称は「積乱雲」(せきらんうん))は、
雲の峰は高度13km位まで届く、
非常に背の高い雲なのですが、
雲の底はとても低いところにあります。
雲の下の空間が広くなることから、
秋の空が高く感じられるのです。
 
雲が高く浮かぶ
秋の空が高く見えるもう一つの理由として、
雲が出来る高さがあります。
 
雲の種類を大きく分けると、
空のどの高さで発生した雲なのかによって、
高度5000~1万3000mの上層に出来る「上層雲」
高度2000〜7000mの中層に出来る「中層雲」、
高度2000m以下の下層に出来る「下層雲」の
3種類に分けられます。
 
最も高いところにある「上層雲」です。
高い位置に美しく並んでいるため、
空が見える割合が多く、空が高く見えるのです。
 
秋によく見られる雲としては、
「筋雲」(巻雲)、
「鱗雲・鰯雲・鯖雲」(巻積雲)、
「巻層雲」であり、これは
最も高いところに現れる「上層雲」です。
つまり、実際に秋は雲の現れる位置が
高くなっている訳です。
 
空気の透明度が高い
空は青く高く見えるのは、
空の透明度が高く、澄んでいるからです。
では、なぜ秋の空は透明度が高いのでしょうか。
 
夏は、太平洋で発生した
「湿った高気圧」に覆われることで
晴れになります。
その後この高気圧は南へ遠ざかり、
日本海や北日本に寒帯高気圧が張り出し、
これらの境に「秋雨前線」が出来て、
長雨を降らせます。
それも10月中旬になるとだんだんと南下して、
代わって大陸から
「乾燥した移動性高気圧」が入ってきて、
日本列島を覆うことで晴れになります。
 
夏のように水蒸気が多いと、
空気中の水分が太陽光を散乱するため
白っぽく見えます。
一方乾燥していて水蒸気が少ないと、
太陽光は散乱しにくくなるため、
空が青く澄んで見えるのです。
 
春も同様に、
中国大陸から乾燥した高気圧が
日本にやってくるのですが、
春の空は「春霞」という季語もあるように、
ぼんやりと霞んでいる印象があります。
それは、大陸の地面の状態が
春と秋では異なるからと言われています。
 
春は雪や氷が融けたばかりで、
土や砂が舞い上がりやすくなっています。
視界を悪くする「黄砂」などの影響もあって
空の透明度が低く、霞んだ空になる。
 

秋晴れが続く「帯状高気圧」

まもなく11月。
この頃になると、低山でも紅葉が次第に進み、
里山ハイキングなどが楽しくなる季節です。
 
秋は、高気圧と低気圧が交互に通過するため、
2~3日の周期で天気が変化しやすくなりますが、
そんな秋でも晴れの天気が長続きする
パターンがあります。
 
高気圧の後にまた高気圧が控え、
複数の高気圧が東西に連なって帯状に広がり
日本付近を広く覆い、数日から1週間程度
晴天が続くことになります。
このような高気圧を「帯状高気圧」と言います。
 
大陸から進んでくる乾燥した空気を伴った
移動性高気圧に広く覆われると
爽やかな青空が広がります。
 
夜間に晴れ間が広がると
「放射冷却」が強まることから
気温が下がって朝の冷え込みが強まります。
冷え込む日が現れやすくなると、
朝晩の冷え込みが更に増し、
紅葉の色づきが進みます。