うまずたゆまず

コツコツと

『養生訓』~夏月、尤保養すべし~

 
 
貝原益軒の『養生訓』には、
季節毎の気温や湿度などの変化に合わせた
体調の管理をすることにより
初めて健康な身体での長寿が得られると
記されています。
そして「四季のうち、夏は最も保養しなければ
ならない」と書いています。
 

巻第六 慎病(しんびょう)

『養生訓』の第六巻は、予防の心得について
記されています。
その中で、夏に気を付けなくてはいけないこと
についてピックアップしてみました。
 
夏は気が盛ん
夏は発生した気がますます盛んとなり、
汗が出て人の皮膚が大いに開きますから
外部からの邪気 (外邪) が入りやすくなります。
長時間、涼風に当たってはいけません。
入浴後に風に当たらないようにしましょう。
 
その上、夏は「伏陰」(ふくいん) といって、
陰の気が腹の中に隠れているので、
食物の消化が遅くなります。
過度な飲食は避けるべきです。
温かい食べ物を摂って、
脾胃(消化器官)を温めるようにしましょう。
冷たい水を飲むことも避けるべきです。
全ての生の物の摂取も避けるべきです。
冷たい麺類を多く食べるべきではありません。
 
虚弱な体質の人は特に、
下痢の症状を恐れなくてはなりません。
冷水に長く浸かってはいけません。
酷く暑い時でも、冷水で顔を洗うと
目に損傷を与える可能性があります。
冷水で手や足を洗ってもいけません。
睡眠中に、人に扇であおがせてはいけません。
風に当たって寝てはいけません。
夜、外で寝てはいけません。
夜、外に長く座り露気に当ってはいけません。
酷暑の時も、極端に涼しくしてはいけません。
日に長く当たっていた熱い物に座っては
いけません。
 
夏は、発生の気いよいよさかんにして、汗もれ、
人の肌膚 (きふ) 大いに開く故外邪入やすし。
涼風に久しくあたるべからず。
沐浴の後、風に当るべからず。
且夏は伏陰とて、陰気かくれて腹中にある故、
食物の消化する事おそし。
多く飲食すべからず。
温なる物を食ひて、脾胃をあたゝむべし。
冷水を飲べからず。
すべて生冷の物をいむ。
冷麪多く食ふべからず。
虚人は尤泄瀉 (せっしゃ) のうれひおそるべし。
冷水に浴すべからず。
暑甚き時も、冷水を以 (もって)
面目 (かおめ) を洗へば、眼を損ず。
冷水にて、手足洗ふべからず。
睡中に、扇にて、人にあふがしむべからず。
風にあたり臥べからず。夜、外に臥べからず。夜、外に久しく坐して、露気にあたるべからず。極暑の時も、極て涼しくすべからず。
日に久しくさらせる熱物の上に、坐すべからず。
 
夏に最も保養する
四季の内で、夏は最も保養しなければ
いけません。
霍乱 (かくらん)、中暑、傷食 (しょうしょく) 、
泄瀉、瘧痢 (ぎゃくり) などに罹り易いものです。
生ものや冷えた物の飲食を禁じて、用心して
保養しましょう。
夏にこれらの病気になると、元気を失い
衰弱してしまいます。
 
四時の内、夏月、尤保養すべし。
霍乱、中暑、泄瀉、瘧痢の病、起こり易し。
生冷の飲食を禁じて、慎んで保養すべし。
夏月、此病起これば、元気へりて大いに労す。
・霍乱:感染性などによる嘔吐、下痢症状
・中暑:猛暑、炎天下において起こる急性病証
・傷食:飲食の不摂生などによる消化不良、
    食欲不振、悪心嘔吐などの症状
・泄瀉:下痢の症状
・瘧痢:悪寒戦慄、高熱、多汗などを伴う下痢症状
 
酷暑の時の養生
そして(旧暦の)六、七月の酷暑の時は、
極寒の時より元気が消耗しやすいので、
よく保養すべきです。
加味生脈散 (かみしょうみゃくさん)
補気湯 (ほきとう)、『医学六要』にある
新製清暑益気湯 (しんせいせいしょえききとう) などを
長く服用して、元気が出過ぎるのを
抑制しなければなりません。
一年のうち、時節のために
薬を使って保養しなければならないのは、
この時期だけです。
東垣 (とうえん) の清暑益気湯 (せいしょえききとう)
湿熱を消し散らす処方です。
純補剤 (じゅんほざい) ではないので、
病気でなければ飲んではいけません。
六七月、酷暑の時は、極寒の時より、
元気へりやすし、よく保養すべし。
加味生脈散、補気湯、医学六要の新製清暑益気湯
など、久しく服して、元気の発泄するを
収斂すべし。
一年の内時令のために、薬を服して、
保養すべきは、此時なり。
東垣が清暑益気湯は湿熱を消散する方也。
純補の剤にあらず、其病なくば、服すべからず。
 
井戸浚い
夏には、古い井戸や深い穴の中に
人を入れるべきではありません。
そこには毒気が多く存在します。
古い井戸には、先ず鶏の毛を入れてみて、
毛が舞い落ちにくい時は、
ここは毒があるため、入るべきではありません。
火を燃やして中を加熱した後、入るべきです。
また、酢を熱く沸かして、
多量の井戸に注いだ後に、人が入るべきです。
夏至の時には井戸浚いを行って、
水を入れ替えるべきです。
夏月、古き井、深き穴の中に人を入べからず。
毒気多し。
古井には先鶏の毛を入て、
毛、舞ひ下りがたきは、是毒あり、入べからず。
火をもやして、入れて後、入べし。
又、醋(す)を熱くわかして、多く井に入て後、
人入べし。夏至に井をさらえ、水を改むべし。
 
秋の養生:残暑
秋は、夏に開いた皮膚はそのままで、
七、八月の残暑もまだ厳しく、
すぐに皮膚の隙間が閉じません。
皮膚の表面の気がまだ固まっていないのに、
秋風に吹かれると
皮膚は感じて傷つきやすいものです。
用心して、涼しい風に当たり過ぎないように
しなければなりません。
 
病人は、八月になり残暑も去ってから、
所々に灸をして
風邪を予防し、陽気の発生を助けて、
痰咳の病気の心配を免れましょう。
 秋は、夏の間肌開け、七八月は、残暑も
 猶烈しければ、腠理 (そうり) いまだとぢず。
 表気いまだ堅からざるに、秋風すでに
 いたりぬれば、感じてやぶられやすし。
 慎んで、風涼にあたり過ごすべからず。
 病ある人は、八月、残暑退きて後、
 所々に灸して風邪をふせぎ、
 陽を助けて痰咳のうれひをまぬがるべし。
 

巻第三 飲食上

「巻第三 飲食上」は、
特に飲食に焦点を当てて、
元気を養う方について説いています。
夏についての注意点を挙げてみました。
 
温かいものを食べる
老人も子供もともに、四季を問わず、
いつも温かいものを食べるべきです。
特に夏は体の中に陰の気が内在します。
ですから、若くて元気旺盛な人も温かいものを
食べるべきです。
生ものや冷えたものは食べてはいけません。
それらは滞りやすく、下痢を起こしやすい
のです。
冷たい水を多く飲んではいけません。
四時老幼ともに、あたたかなる物くらふべし。殊に夏月は伏陰内にあり。
わかく盛なる人も、あたたかなる物くらふべし。
生冷を食すべからず。滞やすく泄瀉しやすし。
冷水多く飲むべからず。
 
夏に、スイカや生の野菜を多く食べるたり、
冷麺や冷たいものを多く飲めば、
秋になると必ず「瘧痢」(ぎゃくり) という、
下痢を伴う発熱が出る病気になります。
病気には、原因があるものです。
予防が一番です。
夏月、瓜菓・生菜多く食ひ、冷麪をしばしば食し、
冷水を多く飲めば、秋必瘧痢を病む。
凡病は故なくしてはおこらず。
かねてつゝしむべし。
 

巻第四 飲食下

長時間保管された食物
夏、器の中に蓋をして長時間保管された食物は
熱気によって蒸れてしまうため、
消化に悪影響を与え、
不快な気分を引き起こすことがありますので、
これらの食べ物は避けるべきです。
夏月、暑中にふたをして、久しくありて、
熱気に蒸欝 (むしうつ) し、気味悪しくなりたる物、
食ふべからず。
 
スイカなどの瓜は、風が涼しい日や
秋の清涼な日に食べるべきではありません。
夏の暑い時に食べた方が良いでしょう。
瓜は風涼の日、及秋月清涼の日、食ふべからず。極暑の時食ふべし。
 
酒は温かいのを飲む
酒は、夏でも冬でも、冷たいまま飲むのも
熱くして飲むのもよくありません。
温かい程度で飲むべきです。
熱い飲み物は体内の気を上昇させます。
冷たいまま飲むと痰を溜め込み、
胃を傷つける可能性があります。
 
古代の医者・丹渓は、
「酒は冷飲に宜し」と言いましたが、
多く酒を飲む人が冷たまま飲むと、
脾胃に悪影響を及ぼす可能性があります。
少し飲む人であっても、冷たいまま飲むと
食気を滞らせてしまいます。
およそ酒を飲むなら、その温かい気を借りて、
陽気を助け、食の滞りを巡らすために
温かい酒を選ぶべきです。
冷たいまま飲んで得られる利益はありません。
温かい酒の、陽気を助け、気を巡らすのに
及びません。
(そ)酒は夏冬ともに、冷飲熱飲に宣しからず。
温酒をのむべし。熱飲は気升(のぼ)る。
冷飲は痰をあつめ、胃をそこなふ。
丹渓は、酒は冷飲に宣しといへり。
然れ共多くのむ人、冷飲すれば脾胃を損ず。
少飲む人も、冷飲すれば、食気を滞らしむ。
凡酒をのむは、其温気をかりて、陽気を助け、
食滞をめぐらさんがため也。
冷飲すれば二の益なし。
温酒の陽を助け、気をめぐらすにしかず。