
お地蔵様の縁日は毎月24日になります。
その中でも1月に行われる縁日を
「初地蔵」(はつじぞう) と言います。
全国のお地蔵様をお祀りする寺院では、
「初地蔵」は秘仏の公開や特別法要など、
通常の縁日よりも盛大に催されるのが
一般的です。
地蔵菩薩(じぞうぼさつ)
お地蔵様とは?
お地蔵様の正式名称は
「地蔵菩薩」(じぞうぼさつ) で、
仏教の信仰対象である「菩薩」の一人です。
クシティ・ガルバ
「地蔵菩薩」はサンスクリット語で
クシティ(大地)・ガルバ(胎内)。
大地のように広い慈悲で
人々を包み込んで下さる菩薩様とされ、
自らが悟りを開こうとするだけでなく
人々を助けて苦しみを取り除こうとする
慈愛に満ちた仏像として知られています。
右手に錫杖 (しゃくじょう)、
左手に宝珠 (ほうじゅ) を持っており、
柔和な顔立ちで描かれることが
少なくありません。
地獄の救済者
仏教では、お釈迦様が亡くなった後の
56億7千万年後(5億7600万年後という説も)に
「弥勒菩薩様」(みろくぼさつさま)が現れると
言われています。
しかしその間、現世では
仏様が不在の状態になってしまうため、
お地蔵様は、全ての生き物が輪廻転生する
「六道」(ろくどう) と呼ばれる世界に自ら出向き
全ての生き物を救って下さる有難い存在と
されています。
更に、生前に一度でも
「地蔵菩薩」に手を合わせた人は、
死後の閻魔大王の裁判で許され、
天界や極楽浄土に行くことが出来ると
言われています。
日本では平安時代以降、
地獄を恐れる風潮が強まり、
「地蔵菩薩」への信仰が庶民にも広がりました。そして閻魔大王が実は地蔵菩薩の化身と
解釈されています。
水子地蔵(みずこじぞう)
お地蔵様は、子供を守る神としても有名です。お地蔵様が赤い頭巾やよだれかけをつけている姿を見かけることも多いと思います。
「赤」は、仏教において
「清く」 「正しい」 「正直な色」とされており、
魔よけの意味があるためです。
幼くして亡くなった子供(水子)は、
「賽の河原」(三途の川の河原)で
親より先に死んでしまった親不孝の罪を
償うために石を積まされますが、
地獄の鬼がこれを崩してしまうため、
中々完成させることが出来ません。
そんな悲しみに暮れる水子の霊を救うため、
「水子地蔵」(みずこじぞう) として
子供の功徳を積むのを手助けすると
言われています。
この話の根拠となっているのは 、
平安時代中期、最初に念仏を広めたとされる
空也上人 (くうやしょうにん) が書いたのではないか
と言われている仏教歌謡
「西院河原地蔵和讃」(さいのかわらじぞうわさん) を
通じて広まったとされています。
「西院河原地蔵和讃 」
これはこの世のことならず 死での山路の裾野なる
賽の河原の物語 聞くにつけても哀れなり
二つや三つや四つ五つ 十にも足らぬ幼子が
賽の河原に集まりて 父上恋し母恋し
この世の声とは事変わり 悲しき骨身を通すなり
かの幼子の所作として 川原の小石を取り集め
これにて回向の塔を積む
一重積んでは父のため 二重積んでは母のため
三重積んでは故郷の 兄弟わが身と回向して
昼は一人で遊べども 日も入りあいのその頃は
地獄の鬼が現れて やれ汝らは何をする
娑婆に残りし父母は 追善さぜんの務めなく
ただ明け暮れの嘆きには むごや悲しや不憫ぞと
親の嘆きは汝らが 苦患をうくる種となる
我を恨む事なかれ 黒金棒を取り立てのべ
積たる塔を押し崩す
また積め積めと責めければ
幼子のあまりの悲しさに
まこと優しき手を合わせ 許したまえと伏し拝む
汝ら罪がなくなく思うかや 母の乳房がいでたれば
泣く泣く胸を打つ時は 八幡地獄に響くなり
母は終日疲れにて 父が抱かんとする時は
母を離れず泣く声は 天地奈落に響くなり
言いつつ鬼は消えうせる
峯の嵐の音すれば 父かと思うて馳せ登り
谷の流れを聞く時は 母かと思うて馳せ下り
辺りを見れども母はなく
誰とてそえいをなすべきや 西や東に駆け巡り
石や木の根につまずいて
手足を血潮の染めながら おさな心のあじきなや
砂を敷きつつ石枕 泣く泣く寝入る折からに
また精霊の風吹けば 皆一同に起き上がり
ここやかしこと泣き歩く
その時能化の地蔵尊 ゆるぎいでさせ給いつつ
何を嘆くか幼子よ 汝ら生命短くて
冥土のたびに来るなり
汝ら父は娑婆にあり 娑婆と冥途は程遠し
我を冥途の父母と 思うて明け暮れ頼めよと
幼き者を御衣の もと裾の内にかき入れて
哀れみ給うぞ有り難い
まだ歩けぬ幼子を 錫杖の枝に取り付かせ
忍辱慈悲の御肌へ 抱きかかえて撫でさすり
大悲の乳房を与えつつ 泣く泣く寝入る哀れさよ
たとえがたき御涙 袈裟や衣に慕いつつ
助け給うぞありがたや わが子を不憫とおもうなら
地蔵菩薩を念ずべし
南無大聖の地蔵尊
道祖神(どうそじん)
室町時代になると、地蔵信仰は
「道祖神」やその土地の神様と習合して
いきました。
江戸時代になると、鎌倉時代に始まった
「身代わり地蔵信仰」が発展して
「泥付地蔵 (田植え)」「矢取地蔵」
「縄目地蔵」「延命地蔵」「子育地蔵」
「腹帯地蔵」「とげぬき地蔵」「水子地蔵」などが作り出されていきます。
なお道路脇に「道祖神」として祀られている
お地蔵様には、
疫病が村に入り込まないよう魔除けをしたり、
旅人の安全を願うなど、様々な役割があります。
また墓地にお地蔵様が建てられることも多く、
故人の安らかな眠りを守るだけでなく、
墓地に魔物が入り込まないように見張る
存在ともされています。
お地蔵様の御利益
仏教の地蔵菩薩に関する代表的な経典である
『地蔵菩薩本願経』(じぞうぼさつほんがんきょう)には
お地蔵様にお線香と花を手向け、供養をすると
28種の功徳と7つの利益を得られると
されています。
「初地蔵」の日には、普段より多く頂ける?
なお、28種の功徳は以下の通りです
1. 天龍護念:天龍が守ってくれる
2. 善果日増:善果が日毎増す
3. 集聖上因:勝れた因が集まってくる
4. 菩提不退:悟りの境地から後退しない
5. 衣食豊足:衣・食に満ち足りる
6. 疾疫不臨:病気に罹らない
7. 離水火災:水の難、火の難に遭わない
8. 無盗賊厄:盗賊の被害に遭わない
9. 人見欽敬:人から敬われる
10. 神鬼助持:神霊が助けてくれる
11. 女転男身:女性から男性になれる
→ 一旦男性になることで、
成仏することが出来るように
なるとした思想に基づく
成仏することが出来るように
なるとした思想に基づく
12. 為王臣女:王や大臣の令嬢になれる
13. 端正相好:端正な容貌に恵まれる
14. 多生天上:何度も天界へ生まれ変われる
15. 或為帝王:あるいは人間界に生まれ変わって
帝王になる
帝王になる
16. 宿智命通:前世に得た智慧によって
将来を知る事が出来る
将来を知る事が出来る
17. 有求皆従:求める者は皆、従う
18. 眷属歓楽:眷属(一族の者や配下の者) が
歓び楽しむ
歓び楽しむ
19. 諸横消滅:諸々の理不尽な事が消滅していく
20. 業道永除:カルマが永久に除かれる
21. 去処盡通:赴く場所にうまくいく
22. 夜夢安楽:夜の夢見が安らかになる
23. 先亡離苦:先祖が苦しみから解放される
24. 宿福受生:幸福になる運命の人生を授かる
25. 諸聖讃歎:諸聖人が讃えてくれる
26. 聰明利根:聡明で利発になる
27. 饒慈愍心:哀れみ、慈しむ心に溢れる
28. 畢竟成仏:絶対的な悟りを得ることが出来る
また、7つの利益があるともされます。
1. 速超聖地:更に優れた境地へ速やかに進める
2. 悪業消滅:悪いカルマが消滅する
3. 諸佛護臨:諸々の仏が護ってくれる
4. 菩提不退:悟りの境地から後退しない
5. 増長本力:本来持っていた能力が増幅される
6. 宿命皆通:カルマの全てに通ずる
7. 畢竟成佛:必ず仏になる
初地蔵の縁日がある主な寺
お地蔵様は全国各地に存在し、
宗派を問わず信仰されています。
「初地蔵」の縁日があることで知られる、
主なお寺をご紹介します。
東京都「とげぬき地蔵尊高岩寺」
「とげぬき地蔵尊」の名で親しまれる
「高岩寺」(こうがんじ) にお参りすれば
人の病気や悩みなどいわば人の心身に刺さった
「とげ」を抜いてくれると言われています。
御本尊の「延命地蔵」(えんめいじぞう) は、
高岩寺の檀徒でもある又四郎という人が、
妻の病気を治すために祈っていた時、
夢の中に現れた地蔵菩薩が授けたものと言われ
妻は速やかに健康を取り戻しました。
また正徳5(1715)年、
大名屋敷で針を誤飲した女性に、
この地蔵尊像を写し取った紙札を飲ませると、
針が紙札の地蔵尊を貫いて出て来たのが
「とげぬき」の始まりだそうです。
本尊の「延命地蔵菩薩」は秘仏とされ、
一般公開はされていませんが、
そのお姿を元に作られた御影 (おみかげ) に
祈願しても御利益があるとされています。
また、水をかけて洗った所が良くなるという
「洗い観音」も有名です。
1月24日・5月24日・9月24日に大祭が行われ、
中でも「初地蔵」は盛大で、
参道には多くの露店が並びます。
神奈川県「板橋地蔵堂」
神奈川県の小田原市にある「板橋地蔵堂」の大祭は年に2回あり、
夏は8月23・24日、冬は1月23・24日です。
露店が出て、多くの参拝者で賑わいます。
また弘法大師によって作り出された本尊
「延命子育地蔵大菩薩」
(えんめいこそだてじぞうだいぼさつ) は秘仏のため、
姿を見られるのは大祭期間中だけです。
8尺(約2.4m)にもなる大坐像の懐に安置され、
腹の中にいるように見えることから
「胎内仏」(たいないぶつ) とも呼ばれます。
和歌山県「子安地蔵寺」
高野山麓の街・和歌山県橋本市にある
天平9(790)年に行基が開創した
「子安地蔵寺」(こやすじぞうじ) は、
樹齢100年の藤が敷地のあちこちで蔓を伸ばし、
5月初旬には紫色の花を咲かせることから
「花の寺」として知られています。
御本尊の地蔵菩薩も行基が彫ったもので、
安産祈願のために安置されたことから、
「子安地蔵」(こやすじぞう) と呼ばれます。
紀州徳川家が代々安産を祈願し、
現在も全国各地から安産を願う妊婦達が
訪れるそうです。
毎年1月24日の「初地蔵法会」では、
本尊の御開帳や餅まきが行われます。