5月25日は 「広辞苑記念日」です。
昭和30(1955)年のこの日、
国民的な辞書『広辞苑』(こうじえん)の
初版が発行されたのを記念した日です。
編著した新村 出とは
『広辞苑』を編著したのは、
言語学者・文献学者の新村 出(しんむら いずる)と
彼の次男で仏文学者・言語学者の新村 猛です。
新村 出(しんむら いずる)は、
明治9(1876)年の生まれで、
東京帝国大学(現・東京大学)を卒業後、
33歳で京都帝国大学文科大学教授になり、
京都大学の言語学科を創設して
西洋言語理論の導入に努め、
日本の言語学研究の基礎を築きました。
また、京大在任期間の大半で
附属図書館長を兼務し、
幅広い見識を生かした資料収集を行った他、
サービスや施設の拡充に努めました。
国語学的研究においても、
国語体系全体の史的究明を図るかたわら、
日本語各単語の意味の歴史並びに
語源研究について数多く発表し、
その集大成されたものが
『大言海』(だいげんかい)の修訂及び
『言林』、『広辞苑』など、
一連の大小辞典の編纂となって現れ、
国民の言語生活に大きく寄与されました。
昭和31(1956)年、文化勲章を受章。
昭和42(1967)年)、満90歳で亡くなりました。
『言海』は日本最初の近代的国語辞典です。
国語学者の大槻文彦が編纂に携わりました。
その後『言海』を増訂した『大言海』の編纂が
行われましたが、大槻は完成前に没。
その後は、関根正直、新村出らが大幅に増補改訂し、
昭和7~10(1932~35)年四巻刊行されました。
『広辞苑』誕生
『辞苑』(じえん)
「言葉の百科事典」とも言われる『広辞苑』は、昭和10(1935)年に博文館(はくぶんかん)より
発行された『辞苑』(じえん)を改訂したものです。
大正末期から昭和初期にかけては、
三省堂の『広辞林』、大倉書店の『言泉』、
冨山房の『大言海』などの国語辞典が
次々と刊行されていた時期でした。
「岡書院」を経営していた岡茂雄は、
中高生でも使える一般家庭向けの
国語辞典を作ろうと思い立ち、
旧知の間柄だった新村出に編集作業を依頼。
岡の発案から5年後の昭和10(1935)年2月に
刊行されました。
なお書名は、東晋の道士・葛洪(かつこう)の
『字苑』に因んで『辞苑』としました。
『辞苑』は、収録語数は約16万語で、
定価4円50銭にも関わらず、
瞬く間にベストセラーとなり、増刷を重ね、
昭和13(1938)年には『言苑』という
一回り小型の辞書も出されました。
「岡書院」は、当時、東京で民俗学や考古学の
専門書店兼学術出版社でした。
『辞苑』という国語と百科兼用の辞書の編纂は
「岡書院」のような小出版社にとって
経済的にもあまりに大変であったことから、
版元は大手の博文館に移されることになりました。
なお、岡 茂雄は、南方熊楠を最初に見出し、
鳥居龍蔵や新村出の著作を出版するなど、
学術史上の名著となる多くの書籍、雑誌を世に
送り出しました。
『辞苑』(じえん)の改定に着手
『辞苑』の内容には不十分な部分もあり、
すぐに改訂版の話が持ち上がります。
ですが、新村出は博文館との交渉で疲れ果て、
改訂に乗り気ではありませんでした。
そこで再び岡に読者への責任もあると説得され、
改訂に取り組むこととなりました。
この増補改訂版の仕事は困難極まりなく、
また外来語の充実を図るため、岡と新村は、
仏文学者であり、言語学者でもあった
新村の次男・猛を編集スタッフに加えます。
猛は得意の外来語の編集に注力するだけでなく、
自身の京大人脈を最大限に活用するなど、
いつしか、高齢の父・出に変わり、
編集の中心的存在になっていました。
膨大な作業量も精力的にこなし、いよいよ
校正刷りのための印刷工程に入りましたが、
時は第二次世界大戦の真っ只中。
校正刷の加筆も困難な状況となり、
編輯室も転々とせざるを得なくなっていました。
そして昭和20(1945)年の東京大空襲により、
印刷所と倉庫が被災。
共同印刷地下室に保管されていた
数千ページ分の活字組版と
大量の印刷用紙が全焼し、
改訂版の刊行は絶望になってしまいました。
戦後、岩波書店を版元に編集作業再開
戦後、博文館に『辞苑』改訂版の出版は
不可能であったことから、
岩波書店が肩代わりし、
昭和23(1948)年に国語辞典編集部を発足させ、
猛を中心に、新たに『広辞苑』という名称で、
新村家など数ヶ所に残しておいた
改訂版の『辞苑』校正刷りを元に、
改訂作業の再開されました。
ところが、旧仮名遣いは新仮名遣いに改められ、
外来語が怒濤のような勢いで入り込み、
新語も次々と誕生したことから、
その作業は、予想を越える困難なものでした。
編著者を始めとする関係者の労苦が実り、
昭和30(1955)年5月25日、
『広辞苑』が発行に漕ぎ着けることが
出来たのでした。
岩波書店が編集に着手して7年、
『辞苑』からは20年という歳月がかかりました。
『広辞苑』の初版本
初版の収録語数は約20万語、
定価は2,000円でした。
当時、公務員の初任給が8,700円で、
喫茶店のコーヒーは1杯50円でしたから、
『広辞苑』はとても高額なものでしたが、
印刷が間に合わないほど売れ、
大ベストセラーとなりました。
『広辞苑』の最新の版
ところで『広辞苑』の最新の版は、
平成30(2018)年1月12日に発行された
第七版です。
第六版の発行が平成20(2008)年1月ですから、
10年という歳月をかけて改訂され、
発行されました。
収録語数は約25万語、
定価は税込で普通版が9,720円、
机上版が15,120円となっています。