「うおこおりをいずる」
と読みます。
寒い冬の時期、凍った水の下で
じっと春を待っていた魚達も、暖かさを感じて
元気よく氷の上に飛び跳ね来るという
意味です。
春先の氷はまだ割れないまでも、
温かい東風に薄くなり、
その下で魚達が動き始めているのが
透けて見えてくるようです。
この時期によく見られる
春先の薄く張った氷や解け残った氷は、
「薄氷」(うすらい)とか
「春の氷」「残る氷」と呼ばれ、
まだまだ寒い日が続く雪国にも、
春の訪れを実感させてくれます。
ところで、巷にはこの魚が釣れ始めると
「春が来る」と言われている
「春告魚」(はるつげうお)なる魚が
存在するのをご存知ですか?
広辞苑などの辞書には、
「地方によって春先によく獲れる魚」と記され、
全国各地で様々な種類の「春告魚」があります。
「春告魚」の代表的な魚と言えば、
古くから春を代表する魚と言われた
「鰊(ニシン)」でした。
しかし1950年代以降ニシン漁が減ると、
代わり「目張(メバル)」が
「春告魚」と呼ばれるようになります。
春が訪れると、「メバル」も「ニシン」も
産卵のため浅瀬に移動することから、
春を告げる魚とされているのです。
日本は東西もしくは南北に長く、
その地理的要因で
春を感じる魚「春告魚」は
それぞれの地域で異なります。
北海道・東北地方
鰊(ニシン)
漁獲高が減ったとはいえ、ニシンは
北海道にとって代表的な「春告魚」です。
江戸時代後期、北海道ではニシンが大量に獲れ、
当時はコメの代わりに、ニシンの干物である
「身欠きニシン」を年貢として納め、
「これは魚に非ず、海の米なり」から、
魚偏に非を付けて「鯡」という字を使ったと
言われています。
ニシンは3〜5月頃に北海道西岸に近づく、
カリウムを始めとするミネラルや
たんぱく質、ビタミン類を豊富に含んだ
魚です。
サクラマス
山形県北西部の日本海沿岸「庄内地方」の
春告魚です。
最上川で孵化した「サクラマス」は、
成長とともに日本海へ降りていきます。
その後、産卵のために
再び最上川に戻ってくるのですが、
その時期が春であり
サクラマス漁の最盛期となります。
関東・中部地方
目張(メバル)
関東地方や中部地方、北陸地方など
幅広いエリアで「春告魚」とされています。
東京湾一体に生息する「メバル」は、
毎年2月頃に漁が解禁され、市場に出回ります。
淡白な白身魚で、煮付けにすると
非常に美味しい魚です。
鱵(サヨリ)
「サヨリ」の分布は、
北から南まで広範囲に及びますが、
中でも関東地方は
春にサヨリ漁の最盛期を迎えることから、
「春告魚」として親しまれています。
産卵を間近に控え、秋よりも
身がふっくらしているのが特徴です。
半透明の美しい身をもつサヨリは、
やはり刺身もおススメです。
関西地方
鰆(サワラ)
魚へんに春と書いて「鰆」。
「サゴシ(サゴチ)」から「ナギ(ヤナギ)」、
そして「サワラ」と
成長するに連れて名前が変わる「出世魚」です。
関東地方では、真冬に獲れる「寒ザワラ」が
脂が乗って人気がありますが、
春に獲れる産卵前のサワラも、
脂を蓄えているので美味しくいただけます。
関西地方では春によく食べることから
「春告魚」と言われており、春の瀬戸内海には
産卵のためたくさんのサワラが集まります。
塩焼きや西京焼きで頂く他、
卵や白子も旬の味覚として人気があります。
イカナゴ(コウナゴ)
播磨灘や大阪湾で、早春(2月頃)に
漁の解禁を迎える「イカナゴ(コウナゴ)」は、
関西地方ではまさに、
春の訪れを知らせる風物詩的な存在です。
四国地方
鰹(カツオ)
関東地方などにお住まいの方は
「初ガツオ」と言えば5月!
というイメージが強いと思いますが、
高知県で初ガツオが穫れるのは
3月後半頃からであり、
4月頃に旬を迎えます。
「戻りガツオ」のように
脂が乗っているというよりは、
筋肉質で爽やかな味わいです。
九州地方
素魚(シロウオ)
イサギ、ドロメ、イサダ、ギャフ、シラヤ、
ヒウオの別名があります。
「シロウオ」は体長4cm程のハゼ科の魚で、
全身が透き通っているのが特徴です。
「シロウオ」はハゼ科の魚には珍しく、
海と川を行き来する性質があります。
普段は浅い海の沿岸に生息する海産魚ですが、
産卵期の早春に成魚が川を遡上します。
彼らは冬の終わりから早春にかけ、
満潮に乗って汽水域の最上流、
時には純淡水域まで遡上し、産卵を行います。
全国的にその頃が漁期となっています。
「シロウオ」と「シラウオ」は
大きさも、形も、色も、
更には和名もよく似ていますが、
全く違う種類の魚です。
「シロウオ」は、漢字で書くと「素魚」で
ハゼの一種になります。
一方「シラウオ」は、漢字では「白魚」で、
シラウオ科で、シシャモに近い種類です。
「シロウオ」は頭の先が丸みを帯びていますが、「シラウオ」は尖っています。
「シロウオ」は活けでないと味が落ちるため、
漁獲された後は酸素を充填したパックに入れ、
生きたまま流通します。
そのため地域的な水産物となっており、
都市部では余り食用にされていません。
特に関東周辺ではマイナーな存在である一方、
天ぷらだねとして名高い「シラウオ」の
知名度が高いため、
しばしば混同されています。