命からがら黄泉国から生還した伊邪那岐命が地上に戻ると、まだ夜明け前でした。
黄泉の国の死臭が取れずに気になったので、穢れを落とすために
竺紫(つくし)の日向(ひむか)の橘の小門(をど)の阿波岐原(あはきはら)
[現在の宮崎県宮崎市阿波岐原町]で禊を行いました。
月明かりにキラキラと照らし出された小川を見つけると、
伊邪那岐命は黄泉の衣を脱ぎながら近づいていきました。
すると、不思議なことに服を脱ぎ落とす度に、新たな神々、十二神が生まれました。
- 杖 ⇨ 衝立船戸神 (つきたつふなとのかみ)
- 帯 ⇨ 道之長乳歯神 (みちのながちはのかみ)
- 袋 ⇨ 時量師神 (ときはかしのかみ)
- 衣 ⇨ 和豆良比能宇斯能神(わづらひのうしのかみ)
- 袴 ⇨ 道俣神 (ちまたのかみ)
- 冠 ⇨ 飽咋之宇斯能神 (あきぐひのうしのかみ)
- 左手の腕輪 ⇨ 奥疎神 (おきざかるのかみ)
- 〃 ⇨ 奥津那芸佐毘古神 (おくつなぎさびこのかみ)
- 〃 ⇨ 奥津甲斐弁羅神 (おきつかひべらのかみ)
- 右手の腕輪 ⇨ 辺疎神 (へざかるのかみ)
- 〃 ⇨ 辺津那芸佐毘古神 (へつなぎさびこのかみ)
- 〃 ⇨ 辺津甲斐弁羅神 (へつかひべらのかみ)
「上流は流れが速い、下流は流れが弱い」と言って、
中流に潜って身を清めた時、二神が生まれました。
この二柱を合わせて「禍津日神」(まがつひのかみ)と言います。
(この二神は黄泉の穢れから生まれた神)
- 八十禍津日神(やそまがつひのかみ)- 災厄を起こす神
- 大禍津日神 (おほまがつひのかみ)- 災厄を起こす神
次に、その禍を直そうとすると、三神が生まれました。
- 神直毘神(かむなおびのかみ) - 凶事を吉事に直す神
- 大直毘神(おほなおびのかみ) - 凶事を吉事に直す神
- 伊豆能売(いづのめ) - 禍を正す神
更に、水の底で身を清めると二神、水の中程で身を清めると二神、
水の表面で身を清めると二神が生まれました
- 綿津見三神 [海の神] - | - 住吉三神 [航海の神] - | |
● 水面ですすぐ⇨ | 上津綿津見神(うはつわたつみのかみ) | 上筒之男神(うはつつのをのかみ) |
● 水中ですすぐ⇨ | 中津綿津見神(なかつわたつみのかみ) | 中筒之男神(なかつつのをのかみ) |
● 水底ですすぐ⇨ | 底津綿津見神(そこつわたつみのかみ) | 底筒之男神(そこつつのをのかみ) |
徐々に空が朝焼け色に染り、やがて朝日が差し込むと、
辺りは神秘的な空気に包まれます。
そして最後に生まれたのが、「三貴神」(みはしらのうずのみこ、さんきし)です。
- 左目を洗う ⇨ 天照大御神(あまてらすおおみかみ)- 太陽の神、高天原を治める
- 右目を洗う ⇨ 月読命 (つくよみのみこと) - 月の神、 夜の国を治める
- 鼻を洗う ⇨ 須佐之男命(すさのお)
伊邪那岐命は「三貴子」の誕生を大変喜んで、
「私は、子を生み続けたけれど、ついに三柱の貴き子を得た。」と言い、
それぞれ治める国を授けました。
一番初めに生まれた「天照大御神」には首飾りの美しい玉を渡して、
太陽と昼間、それを司る「高天原」(たかまのはら)を治めるように命じました。
この玉は魂の宿ったもの。伊邪那岐命は自らの魂を振り、その分霊を授けたのです。
次に生まれた「月読命」には、夜の統治を委ねられました。
最後に生まれた「須佐之男命」には海原の統治が任されました。
因みに、『古事記』では、
伊邪那岐命と伊邪那美命が最初に生んだのは「水蛭子」(ひるこ)でしたが、
『日本書紀』では、この「三貴神」とともに生まれたとする一説が載っています。